モダンスペイン料理OLAと天吹酒造、ペアリングディナー

公開日 : 2016年11月09日
最終更新 :

シンガポールでも高まっている日本酒人気。そんな中、ペルー出身のDaniel Chavezシェフによるモダンスペイン料理の店、Ola Cocina del Marで、佐賀の日本酒メーカー、天吹酒造の11代目、木下壮太郎さんを招いてのスペシャルペアリングディナーが11月2日に行われました。

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Wild Mushroom & Sake Amabuki Dinnerと名付けて行われたこのイベント、今の時期ならではの季節感を味わってほしいと、Danielシェフがフランス直送の様々な茸を使って日本酒とのペアリングを考えたそう。全部で5種類の日本酒が提供されます。

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佐賀県で創業328年、天吹酒造の最大の特徴は、様々な花から採れる、「花酵母」を使っていること。

花酵母の抽出が進んできたのは、2000年頃。同時に、これまで杜氏に酒造りを任せるのが主流だった中、酒蔵の後継者自身が酒造りに直接関わるようになってきた時期でもありました。その頃にちょうど、東京での酒造りの勉強を終えて帰って来た木下壮太郎さん。同世代の仲間と、自分たちの手で酒造りをしようと、情報交換を始めました。

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九州の酒と言えば、米の味と香りを生かした、濃厚な味わいの甘めの酒が主流かと思っていましたが、木下さんによると、佐賀は九州では異色で米のうまみがありつつも、切れ味のいい華やかな酒が特徴なのだとか。

仲間とともに試行錯誤する中で、木下さんは「米でジューシーさを表現したい」と思うに至ります。

300年以上続いてきた酒蔵、父の代で作っていた昔ながらの「9号酵母」で作った重厚な地酒は残しつつ、新しいラインの日本酒を作り始めます。その時に出会ったのが、花酵母でした。現在30~40種類の酒を出しているそうですが、そのうちの7割が花酵母とか。花酵母の導入と同時に、木下さんは、花酵母との相性が良い、上品で切れ味のいい日本酒が持ち味の、南部流の麹づくりに取り組みます。

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父の代までは、地酒は地元の人に飲んでもらうものと、地元佐賀、福岡長崎での消費が100%だった天吹の酒。木下さんは、どうせなら多くの人に飲んでもらいたいと、2002年から全国展開、2006年にNYへ市場調査に行った際に知り合ったドイツのデストリビューターの縁で、2008年ドイツを皮切りに、フランス、イギリス、アメリカなど14ヶ国に展開しているそう。最初のころは、飛び込み営業で、スーツケースにサンプルを詰めて、レストランの扉をたたいて回ったこともあったそう。

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(左から、Danielシェフ、コーディネーションを行った菅波葉子さん、木下さん)

シンガポールは2回目の訪問で、前回はWillin Low シェフのモダンシンガポール料理のレストラン、Wild Rocketなどでペアリングイベントを行ったそう。シンガポールなど、海外の料理に合う酒の開発は敢えてせず、目指しているのは、世界で通用する、世界の人がおいしいと思う共通項を持つ日本酒。

日本酒に許された原料はたった3つ。米、米麹、水。これだけ。それで、どんな風に味と香りを引き出すか、というとても奥深い仕事だと木下さんは語ります。

花酵母と一口に言っても、花の種類で印象がだいぶ違う。たとえば、カーネーションは可憐な花姿に似ず、どっしりした印象。リンゴの花の酵母は、リンゴの香りのニュアンスが合ったりするんです。花を使っているから、季節感を感じてもらえるのも魅力。たとえば、日本なら夏にひまわりの花酵母の日本酒が人気だったりするんですよ。個人的には、バナナの酵母にも注目しているのだとか。

今回、5種類の日本酒に合わせてDanielシェフは8種類の天然の茸を準備。日本酒ペアリング込みでS$158という、シンガポールにしては手ごろな価格。76席がぎっしりと埋まりました。

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OLAのソムリエ、Fabrice Constantinさん。

まず、一つ目のペアリングは、天吹の大吟醸40。地元佐賀産の、酒米ではなく、「飯米」と呼ばれる食事用の米、レイホウを使った日本酒。アベリアの花の酵母を使っています。酸が少なくてフルーティー、花のような香りもあります。

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ミシュラン三ツ星のスペイン料理、Can Faves(カン・ファバス)のSanti Santamaria(サンタマリア)シェフに見込まれ、マリーナベイサンズにあった支店、その名も「Santi」のヘッドシェフとして店を取り仕切っていたDanielシェフ。花酵母の日本酒に、どんなペアリングをするのか、期待が高まります。出てきたのは、フランスから届いたばかりの、Bluefootと呼ばれる歯ごたえのある、やや紫かかった色の高級茸のサラダ仕立て。しゃきっとしたサラダ菜にサクサクののクルトン、アボカドがマイルドでありながら緑の香りを添えています。 Salmorejo(サルモレッホ)と呼ばれる、ガスパチョのようなトマトベースのスペインのスープ風のソースを添えて。スタートにふさわしい軽やかな一品で、フレッシュな野菜のみずみずしさと香り、Bluefootのほのかな苦みが、繊細な大吟醸の味を生かす組み合わせとなっていました。

続いては、甘吹大吟醸、山田錦。米の磨きを含め、造りはほぼ同じで、アベリアの花の酵母を使っているところも同じ。でも、一つ目の大吟醸よりも米のボリューム感があり、味わいがより深い印象があります。醸造した後、氷温熟成と言って、0℃で2年間熟成させて角を取っているのだとか。低温で熟成しているので、香りのフレッシュさはそのままに、丸みのある酒が出来上がるのだといいます。

ちなみに、よく日本酒造りに軟水が良い、というのは、硬水だと菌が活性化しすぎて、発酵が速く進みすぎてしまうのだとか。一般的に、軟水だとまろやかに、硬水だと辛口にきりっと仕上がるのだそう。

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この、米の香りが生きた酒にDanielシェフが合わせたのは、Girolle & Chantarelle、ジロール茸とシャンテレル(アンズタケ)。根セロリとジャガイモのクリームスープに、スペインのAl Ajillo(アル・アヒージョ)と呼ばれるニンニクとオリーブオイルのソースで和えた茸とスモークした鰻、イベリコハムを乗せたもの。ウナギの土の香り、根セロリやジャガイモの大地の甘味、イベリコハムの塩気とナッツのような香り。そこに、米の旨味のある酒が加わり、秋らしい大地の恵みを感じるペアリングに仕上がっていました。

3種類目の日本酒は、天吹の純米吟醸美山錦生。酵母は撫子。シトラスやハーブ、野草のようなグリーン系の香りがあり、酸味も利いています。

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これに合わせる茸は、Hedgehog & Morel、ヤマブシタケとモリーユ茸。これを刻んでラグー仕立てにし、唐辛子の効いたスズキの仲間、バラマンディに合わせています。皮をパリッと焼き上げたバラマンディにアーティーチョークのチップス、チェリートマトを添えて。ハーブやかんきつのニュアンスのある日本酒と、白身魚の相性はばっちり。キノコ類やアーティーチョークの大地の味と、米がベースの日本酒の相性の良さを実感します。

4本目の日本酒は、天吹山廃純米雄町。酵母はマリーゴールド。ここまでの3本と比べると、華やかな香りが際立つ日本酒。

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山廃の乳酸っぽい香りと合わせて、Danielシェフが用意したのが、Black Trumpet & Porcini、黒のトランペット茸とポルチーニ茸。どちらも香りのはっきりとした茸を、カタルーニャ風のFricando(フリカンド)と呼ばれる、トマトやナッツでできたソースと合わせ、スモークをかけたオーガニックの鶏肉と小玉ねぎのソテーと一緒に。クリーミーだけど甘すぎないバランスの料理で、鶏肉の香ばしく甘い香り、ナッツの香ばしさなどが、山廃のボディーのしっかりとした味わいにコクを加えていました。

デザートは、苺の花の酵母を使った、天吹純米吟醸苺生を。

米と麹、水だけが材料と思えないほど、フレッシュな苺のような酸味と香りのある日本酒。

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こちらには、Helado de Trufa、茸の王様、トリュフを使ったアイスクリーム。チョコレートのクランブルに、洋梨のシロップ煮、オリーブオイルと海塩、バニラビーンズとトリュフの入ったアイスクリーム。苺のような酸味を際立たせる苺やレモンのソルベと合わせるのもありかと思いましたが、こっくりした乳製品ベースのものと合わせることで、フレッシュなフルーツを添えたようなみずみずしさを日本酒が与えていて、木下さんの言う「米のジューシーさ」を実感する組み合わせでした。

マリーナベイサンズのレストランRiseのNicola van Heemsbergenシェフや、El Mero MeroのDylan Cheongシェフなど、シンガポールの食の関係者も集まってのイベント。

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(Nicola van Heemsbergen シェフ)

ヨーロピアン料理を提供しているRiseのNicola van Heemsbergen エグゼクティブシェフは、「日本酒についてはこれまであまり知らなかったが、特にボディのしっかりした山廃が素晴らしかった、鶏肉にもよく合うね。これからもっと日本酒について勉強していきたい」と話していました。

また、メキシコ料理、El Mero MeroのDylan Cheongエグゼクティブシェフは、「日本酒がこんなに色々な料理に合うとは思わなかった、特に純米吟醸美山錦生と、フルーティーで飲みやすい苺の花の酵母の天吹純米吟醸苺生が気に入った。どこで買えるか教えてもらえば、うちのスタッフにも飲ませて日本酒の奥深さを伝えたい」と話していました。

その他にも、この日訪れた客からは、天吹はどのくらいの種類の日本酒を出しているのか、シンガポールで手に入る店はないのか、などの質問が飛んでいました。

最後は関係者が集まっての記念撮影。前日にコラボレーションを行った有名寿司店、はし田のHatchこと、橋田建二郎さんも駆け付けるなど、シンガポールの東西のシェフも集い、大いに盛り上がったペアリングディナーでした。

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■Wild Mushroom & Sake AMabuki Dinner

会場:Ola Cocina del Mar

日時:2016年11月2日 19:00~

住所:Marina Bay Financial Centre Tower 3,#01-06 12 Marina Boulevard, Singapore 018982

電話:+65 6604 7050

アクセス:MRTダウンタウン駅徒歩3分

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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