京都の四季の移ろいを感じる和食「懐石よしゆき」

公開日 : 2017年03月12日
最終更新 :

約300年の歴史を持つ京料理の老舗を始め、京料理のお店で14年間働いた後、日本大使館の料理人を務めた柏原義之さんが料理長を務める、その名も「懐石よしゆき」。暖簾をくぐると、照明を落とした小径、そこを抜けると、落ち着いた雰囲気のカウンター席へと誘われます。とはいえ、堅苦しさはなく、「京料理も、郷土料理の一つですよ」と柏原さんは朗らかに笑います。会席料理のような華やかな見た目ですが、茶懐石のおもてなしの心と、京料理の要である出汁にこだわった料理を提供しています。

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野菜は全て日本産、それもなるべく京野菜を使うようにしているそうです。

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今回は、S$328のコースをいただきました。

カウンターの後ろには雛人形。

そして、ひな祭りということで、酒粕を使った白酒が提供されます。粒感を残さずきめ細かく仕上げた白酒は、すっきりとした甘み。優しい甘みと、麹の働きで、疲れを癒す効果もあると言われている白酒は、外の喧騒から離れて一息つき、口の中のトーンを和食に整えるのにぴったり。

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世界を季節を映す日本の食を、全体で表現したいと、3月はひな祭りがテーマ。4月には花見をテーマに、京都らしく、7月には祇園祭がテーマになるというこだわりよう。

まずは先付。

赤貝に、まろやかな辛味の辛子味噌、ネギのぬたを添えて。辛子味噌には、ネギを湯がいてから出た粘りの部分を混ぜて、奥行きのある味にしているのだとか。日本酒にもぴったりです。

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八寸は、サクサクしたぶぶあられの衣で揚げたタラの芽、その下にはそら豆。そら豆の間には、魚のすり身が挟まれていて、細かい仕事がされています。

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自家製の花見団子は、ユリ根で作った滑らかな食感のもの、ほんのりと甘い、という自然な印象の甘みが嬉しい一品。その奥はこちらもひな祭りらしい海老の手まり寿司、昆布出汁の効いた優しい味わいの酸味に海老の甘みが寄り添います。

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春を感じるイイダコは、ちょこんと梅肉を乗せ、すっきりと。添えてある枝は日本から取り寄せた梅。季節に応じて変わるそう。奥は白魚の唐揚げ、カリッとした食感を楽しむ仕上がりです。

そして、京料理で最も難しいのは、出汁、と語る柏原さんのお吸い物。器は懐石の作法に乗っ取って、霧を吹いて提供されます。

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ハマグリ真丈の清潮仕立て。

真丈には、やや大ぶりに刻んだハマグリがたっぷりと混ぜ込まれていて、一切れ一切れを噛むごとに、ハマグリの甘みが広がります。

最初にカツオがふんわりと香り、後からハマグリの甘みと旨味がそっと寄り添う出汁は、塩気も控えめで素材の味を感じる魅力が。タラの芽のほろ苦さが、全体の輪郭を際立たせます。

お造りは、淡路島の鯛。

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醤油が発明される前、古来貴族の調味料として使われていた煎り酒を添えて。松皮、と言って表面を霜降りにしてから炙ってありますが、この鯛の、しなやかできめ細かな肉質が最高。

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香ばしさと共に、優しい甘みが感じられます。

本鮪の中トロには、あわ醤油を乗せて。

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土佐醤油に少しだけゼラチンを混ぜて泡立てて作ったあわ醤油は、上質なマシュマロのような、ふわふわ感、エスプーマで作った醤油とはまた違う食感が好きでした。土佐醤油のカツオの、ほのかな酸味を感じるこのあわ醤油、脂の乗ったトロは醤油を弾いてしまう、ということで考案されたものだとか。

本来コースにはありませんが、サービスでいただいたもう一皿。

ぶりの藁焼きに、新玉ねぎと土佐醤油を合わせたオリジナルドレッシングで。

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カツオのたたきに玉ねぎのスライスが合うように、スモークの香りとの相性抜群。

2度藁焼きしてあるということで、香ばしさが際立ち、脂の乗ったブリの旨味が引き立ちます。藁焼きは高知県などで見られる日本の古典的な料理法ですが、普段和食をあまり口にしない、という人も、きっと好きになりそうな味。

焼き物は鰆。春の季節の魚ですが、文化焼き、という西洋の料理法を生かした変わり焼きの一種での提供。

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旬の鰆ですが、そのさっぱりとした個性にコクをプラス、卵黄に油と酢を加えた、自家製のマヨネーズをかけて焼いてあります。とはいえ、酸やスパイスのインパクトの強いマヨネーズではなく、あくまでもコクと、表面を焦がした香ばしさを加えるためのもの。

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穏やかな鰆の味を覆い隠すことなく、華やかさをプラスする印象です。

魚料理が続き、肉のメインに行く前に、西洋料理ではグラニテなどが出てくるところですが、こちらでは、筍の土佐煮で一息。

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とはいえ、前半の味の構成とは少し変えて、出汁をはっきりと効かせて、やや甘みもしっかりめに。全体のトーンを落とさずに、しっかりと次の牛肉につなぐ橋渡しになっています。すっきりと食べられるように工夫された柴漬けおろし、柔らかく繊細な、春ごぼうのきんぴらを添えて。

強肴は鹿児島和牛の炭火焼。

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和牛ならではの脂の旨味、そして香ばしい炭の香り。芽ネギとたっぷりのミョウガが上品な和の印象。甘いトマト、アメーラを添えて、甘みと酸味をプラス、味にふくらみを持たせています。

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お食事に添えるお漬物に、と柏原さんが鰹節を削り始めました。最高級の本枯れ節の削りたてを、パラパラとかけた自家製のぬか漬け、古漬け。そして、ほんのり山椒が香る赤出汁と共に出されたのは、大人気という、桜エビの土鍋ご飯。

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土鍋で炊き上げたご飯はお米の甘さが引き出されていて、一旦桜エビを素揚げして、それから混ぜ合わせてあるので、桜エビの香ばしさが楽しめます。細かく切った青紫蘇、ほんの少しのゆかりと混ぜて。

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水菓子は、皇室御用達の静岡のクラウンメロンとせとか。

せとかはきめ細かくみっちりと詰まった果肉の質感と甘酸っぱさが楽しめ、毎日丁寧に転がしながら追熟したというメロンは、コンポートを食べているかのように甘くて香り高くジューシー。

最後は、お抹茶とともに、桜餅。

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繊細な皮の中の粒餡が、個人的にとても好みでした。甘すぎず、アクが綺麗に抜けていて、小豆の美味しいところだけを引き出して作ったような、上品な餡。

日本の春ののどかな里山が浮かぶような、穏やかな余韻を残した締めくくりでした。

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最大7人が入れる個室は、特に使用料などもかからないそうなので、大勢が集まる会食など、大切な席には予約してみては。

素晴らしい京料理の世界を気軽に味わいたい、という方には、「カジュアル会席」と名付けたランチの丼がおすすめ。壁を隔ててすぐ隣の姉妹店、Horses Mouthで提供されています。

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今回ご紹介した桜エビの炊き込みご飯の丼やマグロの漬け丼、牛丼などが揃っていて、味噌汁や、漬物、デザートがついたセットで、なんとS$25〜。ちなみに、全て会席よしゆきのキッチンで作られていますから、お味は折り紙つき。シックで落ち着いた雰囲気は、よしゆきの雰囲気を継承しています。

夜訪れる前にお味を試してみたい、という方や、自分へのご褒美ランチなどにもぴったりです。

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■懐石よしゆき

営業時間:ランチ 12:00~(L.O.13:30)、ディナー 19:00~(L.O.21:30)、日曜休

住所:583 Orchard Road, Forum The Shopping Mall, B1-39 Singapore 238884

電話: +65 6235 1088

アクセス:MRTオーチャード駅から徒歩7分

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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