[Jaan x Otto e Mezzo] ミシュラン三ツ星Umberto Bombanaシェフが来星

公開日 : 2017年07月17日
最終更新 :

ミシュラン一ツ星のフレンチ、Jaan で、アジアのベストレストランでライフタイム・アチーブメントアワードに選ばれた、イタリア人シェフで、ミシュラン三ツ星のOtto e MezzoのUmberto Bombana(ウンベルト・ボンバーナ)シェフを招いてのイベントが行われました。

実は、JaanのKirk Westawayシェフは2015年にS.Pellegrino Young Chefとして、世界3600人のシェフの中から選ばれたということで、若手のホープとベテランが、一つのコースを生み出すという意味もあるコラボレーション。

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ペアリングはOtto e Mezzo のMarino Braccu支配人兼チーフソムリエによるもの、スパークリングのイタリアンワイン。こちらはシャンパンと同じ製法で作られた、シチリア産、年間1万本しか生産されない希少な生産者、Tasca d'Almeritaのものです。最初に感じたのは、はちみつのような香り、そして、マンゴーのような熟したフルーツ、後からクリームのような乳製品のニュアンスも。シチリア島の中心の山間部にあるワイナリーで、ワイナリーのすぐそばで育てている自家農園のシャルドネ100%で作られていて、寒暖差があるために糖度の高いぶどうができるそう。確かに酸もキリッとしていて、ボリュームの幅が広い印象です。

そして、水のペアリングも。炭酸のないAcqua Pannaと、炭酸ありのSan Pellegrino。Acqua Pannaが13〜15年かけて地下から湧き出してくるのに対して、S.Pellegrinoは30年。その分よりミネラルを含んでいるそう。グラスの口の形も、Acqua Pannaは口が開いていて、より鼻が液面に近づいて、その印象を感じやすいように、逆に炭酸のあるS.Pellegrinoは、炭酸の泡が鼻に当たらないように、口がすぼまっているのだとか。

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まずスタートは、Kirkシェフの定番の前菜、

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そば粉のブリニに、鯵のペーストを挟み、上にオシェトラキャビアを乗せたもの。

うさぎの春巻きは、表面をカリッとあげた中に、コリアンダーの効いたうさぎの肉。そして、フォワグラのマカロン。以前のねっちりした食感から、食感がややクリスピーに軽くなり、前菜として楽しめるマカロンになり、甘さが控えられ、そのせいかフィリングの塩も若干強まった印象。

そして、スプーンを使わずに、和食のお椀を飲むようにいただく、トリュフの出汁のスープ。手で包み込んだ器は、ほっとする温かさ。そこに、トリュフの出汁を注いでふんわりと盛り上がった温かいサバイヨンのような印象の、クリームたっぷりのジャガイモのエスプーマ。誰もが好きな、コンフォートゾーンの味わい。

カントリーハウスブレッドは、全粒粉のあっさりとした香り。酸味も控えめで、ピュアな味わいの料理に寄り添う印象。バターはボルディエ。

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ベネト州・ソアベ地区のガルガネガ種のワイン。1890年から続く、Pieropanという作り手のものです。

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フルーティーで、マスカットや熟した桃のような印象。そして奥から白胡椒の香り。フルーティーな香りに反して、とてもドライ。

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最初の一皿は、Umbertoシェフによるもの。73度で18時間真空調理したオーストラリアの赤アワビに、自家製のスイートペッパーとトマトコンフィを添えたもの。これがアクセントとしてとても甘く、トマトとスイートペッパーらしい味わいが引き出されていたのが印象的で、後でお聞きすると、トマトのジュースとコンフィトマトを乾燥させ、同じくセミドライにしたスイートペッパーと混ぜているということ。一見構成要素が少ないように見えますが、手間をかけて一つ一つの食材が際立つように表現されています。素材を素材らしく、というのは、こういった目に見えない裏側の手間があってこそのもの、と実感する一品。

ワインのアフターテイストのほのかな苦味が、オリーブオイルの苦味とも重なります。

トマトつながりで次のKirkシェフの一皿へ。

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ワインは、南イタリアが起源の古典品種Fiano種100%、カンパーニャ州のPietracupaという作り手のもの。ドライでミネラルがしっかりしているのが特徴、とはいえ、香りではクリームや乳製品の印象、リッチなフルーツの丸みを感じ、黒オリーブの乗ったブッラータチーズの乳製品の味を引き立たせます。

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枝で熟したトマトは、真ん中をくり抜いて、外側の部分は36時間ディハイドレーター(食品乾燥機)で乾燥させ、柔らかさは残しながら、凝縮した味わいを表現。そして、同じ製法で作った別のトマトをコニション(小型のピクルス)、ケイパー、バジルなど共にミキサーにかけて、内側に戻したもの。こう言った、素材の味をより素材らしく表現しようとするアプローチは、Umbertoシェフと重なるところがあります。緑のトマトの芯の部分、ペストソース、バジルのソルベ、オリーブオイルのキャビア、トマトの赤いクリームのようなものは、トマトウォーターをニンニクや酢、唐辛子などと共に12時間かけて煮詰めたもの。グリーンのトマトの身は砂糖とビネガーでマリネして。カプレーゼの再構築のような一皿。

続いてのワインは、シチリア島、エトナ山に近い、黒い火山土壌で育った100%カッリカンテ種のワイン。ファーストノートは、羊のチーズのような少し動物性の香り。そして、熟したエキゾティックフルーツの香り。味わいはドライ。

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ここでサプライズで出てきたUmbertoシェフのシグネチャー、トリュフのパスタと、どこか野性味のある乳製品のニュアンスがよく合います。

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トリュフの旨味をうまく増幅させるコンビネーションです。子どもの頃からパスタを作るのが大好きだったというUmbertoシェフ、通常のレシピよりも卵黄をたっぷり使った手打ちのタリオリーニは、パルメザンチーズとバターであえて。

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なぜかわからないけれど、すごくシンプルなのに、美味しい。その理由をUmbertoシェフにこっそりお聞きしてみると、秘密は手間のかかったトリュフのエマルジョンに。ペリゴール産と近いという、西オーストラリアのウィンタートリュフを使ったエマルジョンは、トリュフの皮をイベリコ豚のハム(今回はクラテッロ)と一緒に炒め、野菜の出汁、そしてトリュフを絞ったジュース、赤ワインと合わせて煮詰めたもの。旨味の凝縮した味わい。シンプルながら、まさに絶品のパスタ。

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「シンプルで美味しいものを作るのは難しいけれど、それが自分の目指す形」とUmbertoシェフ。

続いてのKirkシェフからのサプライズの一皿は、サーモンの仲間、Artic Charという魚。

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サステイナブルな食材としてシンガポールでも人気の高いサーモンですが、実はKirkシェフはその飼育方法が好きではないのだとか。その理由は、「自分の作る皿の上に乗る食材は、全て敬意と愛を持って扱われたものであるべき」というポリシーから。小さい生産者が大切に育てた食材を、美味しく提供したいという思いを持っています。「シンガポールでは天然の鮭を手に入れることは難しい。だから、似た仲間で、天然のものが手に入るArtic Charを使うのです」とKirkシェフ。

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コールラビのピュレ、そしてそれぞれにあった調理時間で別々に茹でた野菜と海老に、ボルディエバターを使った海藻のオランデーズソースを添えて。まずは、遠目で見ると緑一色に見える野菜の多様な下ごしらえに驚きます。ソラマメやセロリ、緑の香りと食感を残した蕪、グリーンピースも、フレッシュな新蕎麦を思わせるような独特の香りを残して。青梗菜のような葉野菜の中国野菜のナイバイとチョイサムなどなど。仕上げは、グレープシードオイルにニンニクを漬け込んだオイル。穏やかな香りを出すためにあえてニンニクは生で使い、そこにチキンストックを少しまとわせて。梨は甘みを引き出して茹で、そして蕪は青い香りと食感を残して。そしてエビは、ニューカレドニア産のObsiblue(天使海老)。表面に感じる出汁のニュアンスは何だろうと思ってお聞きすると、これは、背わたをとったあとに串にさし、スティームバスにカツオの出汁を張り、その蒸気だけで、穏やかな香りをつけたものとか。

Artic Charは、真空調理器を使い50度で10分間。ごく軽く火を入れて、ふわふわの食感に。アマルフィレモンの皮と細かく刻んだチャイブを乗せています。

ここに、濃厚な海の香りとバターの芳醇さがあるソースを合わせると、より一層深みのある味わいになり、前のトリュフの濃厚さに負けない、海の複雑なレイヤーを感じる味わいに。

そして、Umbertoシェフのロブスターの一皿。

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スコットランド産のブルーロブスターは、シトラスの香りをほのかにまとい、程よい瑞々しさと食感があります。食感の秘密をお聞きすると、殻付きのまま2分間だけ蒸して。そこに、ロブスターとラングスティーヌのコンソメを煮詰めて、それに葛でとろみをつけてあります。下にはウニと柔らかく煮た茄子とトマトのコンフィ。ウニは少しだけ火が通っていて、より濃厚な印象に。上の松茸は、オレンジのジュースを濃縮したもの、オレンジとレモンの皮、ケイパーなどで軽くマリネしてあります。松茸というと日本的な印象ですが、すだちや柚子などを使わず、果実味の強いオレンジでマリネすることで、イタリアンらしい一皿に仕上がっています。「松茸の素晴らしい香りと、ロブスターのリッチな味わいを合わせている」とのこと。そして、水分の多いナスが、全体をニュートラルなバランスに仕上げていました。料理は蓋つきで提供されたのですが、仕上げた後に、マリネした松茸を乗せて、蓋をかぶせて数分だけ蒸すことで、松茸にほんの少しだけ火を入れ、またゲストの前で蓋を開けることで、ふんわりとした松茸の香りを楽しめるようになっています。

赤ワインは、サルディニア産、Turrigaという作り手の50%マルヴァジア・ネラ、50%カンノナウ。

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スパイス、大地の香り、味わいにはしっかりとしたタンニンと酸があり、フランス産の新樽で1年半以上樽熟成しているというだけあって、後からバニラの余韻が追いかけてきます。

フックは松茸。

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オーストラリア・マユラファームの和牛の脂の乗ったショートリブは、1kgの肉に6gと、ごくごくわずかに塩をすり込んでから8〜10時間置いておき、塩を染み込ませた後に、まず、味を閉じ込めるために表面を軽く焼き上げてから、真空調理器で63度で36時間じっくり加熱した後、表面を平らにするために、重石を乗せて冷蔵庫で20時間寝かせ、最後にグリルパンで、干し草のスモークとともに焼き上げたという手の込んだもの。

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ポルチーニと松茸、トリュフのソース。蒸し煮にしたフェンネルを添えて。

ビーフのジュとポルトワインのソース。シャロットとガーリックなどを炒めて、ビーフのジュとポルトワイン、トリュフ、松茸、チキンストックを加えて煮詰めた後、バターで仕上げてあります。スムースなマッシュポテトよりも、粒感を残した方が好きだというKirkシェフ、ポテトは半生にしてシャキシャキ感を残して、火の通り過ぎていないジャガイモの香りもはっきりと感じられて、これが松茸の印象とあっていました。

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そしてソルベは、ミルクソルベに、レモンジュースと水、アルコールを混ぜる、イタリア伝統のScroppinoというソルベのカクテル。Marino Braccuさん(写真左)とペストリーシェフのFabio Bardiさん(同右)が作ります。テーブルサイドでア・ラ・ミニッツで仕上げるのは、放っておくとアルコールが分離してしまうから。本来はウォッカで作るものですが、代わりにプロセッコとゲヴェルツトラミネルのグラッパ、レモンチェッロを少々。最初に入れたスパークリングも入れて。

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ふわふわで、ヨーグルトのような軽やかな乳製品の香りの軽やかなソルベ、アルコールの香りがありますが、ミルクソルベでカバーされているので、アルコールの苦味を感じずに、すっといただけます。

合わせるのは、トスカーナ産、ノーブルファミリーの結婚式のために作られた甘口ワイン。スパークリングと同じ、Tascaという作り手で、50%ゲヴェルツトラミネル、50%モスカート。

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モスカートならではの甘いマスカットキャンディのような濃厚さ、レーズンのような凝縮した甘みがありますが、しつこくありません。ゲヴェルツトラミネルの豊かな香りが、チョコレートを引き立てます。

ティラミスの再構築。

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エスプレッソアイスクリーム、チョコレートのラヴァケーキ、ヴァローナのカカオ40%のミルクチョコレートのクリーム。クリスピーなチョコレートメレンゲ、イタリアンメレンゲにマスカルポーネを混ぜたクリームなどに、ホワイトチョコレートをじっくりとキャラメル色になるまで煮詰めてから薄く伸ばしたチュイルを添えて。

ミニャルディーズ

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カンノーリをイメージさせる、カリカリのフィロペストリーの中に、チェスナッツのクリームが詰まったもの、バナナのボンボンはバナナとライムのパルフェをダークチョコレートで包んだもの、ヘーゼルナッツはチョコレートにもヘーゼルナッツペーストを練り込んだようなナッツ感溢れるもので、ちょっとヌガーのような印象、クランチーなライスパフとレーズンが入っています。Jaanのとろりととろけるキャラメル入りのボンボン、ルバーブのタルト、Kirkシェフのふるさと、デボーシャー風のクッキー。

素材への敬意というところでの共通点を持ちつつ、二人のシェフの個性は異なっていて、絵画に例えるなら、細かい要素のグラデーションで味わいを表現する優しい色合いのKirkシェフと、 一つ一つの要素を際立たせて鮮やかな印象のコントラストで絶妙なバランスを取るUmbertoシェフの料理。交互に出てくるので、トーンの違いがコースのリズムを作り、より一層その個性が際立つ印象のコラボレーションでした。

また、コラボレーションイベントの後には、Mieleのクッキングスタジオで、S.Pellegrino 主催の、メディアを集めてのマスタークラスが行われました。Umbertoシェフの新作の松茸とロブスターの一品がデモンストレーションされ、実際の作り方が紹介されました。スチームオーブンで軽く火を通して焼き上げたロブスターは、ぷりっとした食感が楽しめるとメディアからも評判でした。

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そして、サプライズメニューのトリュフのパスタも!

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今回のMarino Braccuさんセレクトのワインは、Cerettoという作り手の希少なバローロ。

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2012年ですが、すでにガーネット色になっていて、ネッビオーロならではの繊細な酸味と複雑な香り、一般的にネッビオーロのタンニンはピノ・ノワールよりも強い、とよく言われますが、こちらはとてもエレガントなタンニン。枯葉を思わせる香りが、トリュフの香りのボリュームをぐっとあげていて、トリュフの旨味や丸みがより強く感じられた、素晴らしいペアリングでした。

Kirkシェフからは、ティラミスのデザート、そしてOtto e MezzoのFabio Bardiペストリーシェフが小菓子が提供されました。

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コラボレーションは終了しましたが、いくつかのメニューはJaanで食べることができます。ぜひ、訪れてみてくださいね!

<DATA>

■Jaan x Otto e Mezzo, Four Hands Dinner

イベント日時:2017年7月10日、11日(終了)

■ Jaan (ジャーン)

営業時間:ランチ 12:00~13:45(L.O)、ディナー 19:00~21:45(L.O)、無休

住所:Level 70, Equinox Complex Swissôtel The Stamford, 2 Stamford Road, Singapore 178882

電話: +65 6837 3322

アクセス:MRTシティーホール駅直結

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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