モダンフィリピン料理 Toyo Eatery と Nouriのコラボレーションイベントへ
最近、レストランのランキング、Asia's 50 Best Restaurantsにもフィリピンのレストランの名前が乗るようになり、元気なフィリピンのダイニングシーン。ブラジル出身のシェフ、Ivan Brehm シェフと、フィリピン・マニラ出身の、Jordy Navarraシェフを迎えてのコラボレーションイベントが行われました。
Fat Duckで一緒に働いていたというIvan シェフとJordyシェフ。それからずっと、一緒にコラボレーションをしようという話があったものの、約10年の時を経て、形になったのだとか。
「世界の料理の共通点を見つけて、世界の人をつなぐ料理を提供したい」というIvan シェフ、メニューの下には、その料理と共通点のある国の名前が書いてあります。
超満員のこの日、ウェイティングバーで待っている間、カクテルをいただきました。何かすっきりとしたものを、というリクエストで作っていただいたのが、ジンライムの上に表面を焦がした卵白のフォームが乗ったカクテル。普通こういった泡のカクテルは、甘いイメージがあったのですが、こちらは甘くなく、料理にも合うカクテルのような気がしました。
まずは、Trello Rosat Trepat, Penedes 2012でスタート。
カタルーニャ地方で栽培される、Trepatという品種のぶどう100%。軽やかな印象のロゼのスパークリングで、赤い果実、はちみつ、樽から来るキャラメルトフィーのような甘い香りもあります。
Snacks
まずは、Break bread。
この言葉は、キリストが最後の晩餐でパンをちぎって分けたことから、食事を共にする、という意味に加えて、分け合うという意味があります。IvanシェフがBacchanalia時代から提供していたスタイル。パンを途中まで半分に切り目が入っていますが、それを物理的にもちぎって分け合う形。天然酵母のライ麦パン、添えてあるのはバジルバター、岩塩とクラッシュピーナッツがかかっています。こちらも定番、野菜を蒸して間接的にエッセンスを抽出するスティームジュースの要領で作られたキャメロンハイランドの自家農園からの、7種類の野菜のスープ。玉ねぎやネギなどの自然な甘みが感じられるスープです。
魚の皮のクラッカーを使った、フィリピン風エスカベッシュ。
スペインの文化圏で広く食べられているエスカベッシュ、フィッシュクラッカーの上にトマトの酸味に、しっかりとオイルが入って、エスカベッシュの揚げた感を感じさせてくれるソース、それにオシェトラキャビアを乗せて。
もう一つはチョコレートのモレソースに小さなイワシを乗せて。
フィリピンではご飯にチョコレートソースをかけて食べることから、メキシコのモレソースにお米を合わせて、リゾット風に。ソース自体のレシピはメキシコのモレソースで、実際にこちらもメキシコ産のAnchoやPasillaと呼ばれる唐辛子を使っているそうですが、Jordyシェフは更に、フィリピンで一般的な、カシューナッツやスターアニス、シナモンの仲間カシア、地元のLabuyoと呼ばれる唐辛子や、フィリピンのカカオ豆で作った地元産のチョコレートを使って、フィリピン風に仕上げています。もう片方はコーンのピュレ。コーンの粒と、ベビーコーンをそれと同じサイズに角切りにしたものの表面を焦がして添えてあります。コーンのピュレは、焦がしているからなのか、少しシナモンやキャロブを思わせるようなエキゾティックな香り。上から優しい辛味の唐辛子の粉を振りかけて。
ここまでがスナックです。
Rafael Palacios "Louro do Bolo" Godello, Valdeorras 2015
Godelloというスペインやポルトガルに見られるぶどう品種を使ったワイン。軽めのシャルドネのような味わいですが、エイジングすることもできるのだとか。
ぶどうの個性を生かすため、樽のバニラ香などがなくなった古い樽、ニュートラルオークの樽で熟成してあります。フレッシュな印象が使われているイベリコ豚の脂を切り、複雑味がバーベキューソースと合うと選んだのだとか。
香りは少し動物性の乳製品の香りが強く、味わいは少し甘く、酸もしっかりしています。
Kinilaw
そして、私がとても好きだったのがこの一皿。Kinilaw
とはタガログ語で生で食べる、という意味。セビーチェととても似ているこの一皿、「フィリピンを含む南太平洋の島々では、生の魚を酸味のあるソースで食べる、と言う食文化が2500年前からある。例えば、南米と太平洋の島々のように、とても離れている場所でも、調理方法には共通項がある。世界の国々の違いを見るのではなく、共通点を見ることで、人と人との心をつなぎたい」というIvanシェフの考えが反映されています。
生のハマチに、ピクルスにした緑の胡椒、きゅうり、カフィライム、コリアンダー、パセリオイルとジンジャーフラワーの蕾などで作ったセビーチェのようなソースをかけて。イベリコ豚の頬肉はバーベキュー仕立てにしてあり、甘辛い味とスモーキーさ、脂のコクを加えています。
Belondrade 'Quinta Clarisa' Rose, Rueda 2015
テンプラニーリョを使ったロゼワイン。ロゼだけれどもボディがあり、自然な酸味がフランを爽やかにしてくれると選んだそう。
飲んでみると、赤いぶどうの果皮の香り、やや甘めの乳製品の香りがあり、飲んだ印象としては、酸がしっかりあるヨーグルトのような後味。最初のスパークリングのロゼよりも、フルーティーさがあります。
Buntaa
ミンダナオ島など南部のフィリピンの料理で、地元のマッドクラブの殻にカニの卵で作ったソースを入れるものを再解釈したもの。
こちらはタラバガニで、カニ肉の下には、ナタデココや生のココナッツの果肉が入ったフランを作り、カニの卵のソースを上からかけています。
温かく、ほんわりと柔らかい食感のフランの中に、噛むと優しい甘みの溢れるナタデココ、そしてコクのあるココナッツの果肉。その甘みが、カニの甘みを押し上げます。
フランは西洋風の茶碗蒸し、ということで、メニュー名に添えられた国名には日本も。
San Miguel Pale Pilsen
フィリピンでよく飲まれているビール、サンミゲルのピルスナー。暑い地域らしいさっぱりとした飲み心地のビール、そしてビールにカレー!というのはどの国でも合いますね。カレーの濃厚さを苦味と泡で切る組み合わせ。
Kare Kare
世界各地に、違った形で存在するカレーは、フィリピンではKare Kareと呼ばれていて、ピーナッツソースがベース。現地でこの料理に使う定番の野菜、バナナの花を使っていますが、ただ煮込むのではなく、通常はフランス料理の、アーティーチョークのバリグール風に使う白ワインや鶏の出汁などで作ったストックで低温調理してあります。その他の具材は、唐揚げをイメージしたと言う衣をつけて揚げた、小さなヤム芋とプランテーン(加工調理用のバナナ)。カレー自体はエスプーマに入れてふんわりと仕上げ、上にはちぎったタイバジルとレモンバームの芽を乗せています。
Gorka Izagirre Txakoli, Basque 2014
バスクの白ぶどう品種、Hodarrabi ZuriとHondarrabi Zerratiaをブレンドして作ったワイン。フレッシュな印象で、ほんのわずかに炭酸を感じます。皮を漬け込んで作っているそうで、少しナッティな印象もあります。
Bahay Kubo
田舎の家、という意味の、童謡の名前から来た料理名。どの料理も基本的にはIvanシェフとJordyシェフの共作ですが、こちらだけは、Jordyシェフのシグネチャー。一番上はからし菜の芽、上の土のような粉は、ナスを炭火で焦がしてからピュレにし、ディハイドレーターで乾燥させたものの粉を、ローストしたピーナッツの粉と合わせたもの。Kalabazaという瓜の一種は高温のオーブンで焼き上げ、中身だけをくりぬいてピュレにしています。高温で表面を焦がすことにより、ナッツのような香りが引き出され、食べるとまるでインドネシアなどで食べられるサラダ、ガドガドに使われているピーナッツソースのよう。全部で18種類の野菜を使っているそうですが、甘く煮た冬瓜、からし菜と大根、ヘチマのピクルス、ユウガオの実のチップス、シャキシャキした生の葛芋(jicama)とチェリートマト、茹でた四角豆、さやいんげんとリママメ、玉ねぎと一緒に炒めたフジマメ(hyacinth bean)、ニンニクと生姜。ほんのりごま油も。「全部混ぜて食べてみて。18の野菜が奏でる音楽が聞こえるはず」とJordyシェフ。
Don Papa Rum
このペアリングの中で一番私が気に入ったのがこちら。甲殻類にはよくフランベでコニャックなど、甘い香りの蒸留酒を使いますが、こちらはフィリピン産のラム。バニラ、アーモンドの花のような香り、砂糖漬けのシトラスのようなメロンのフルーティさもあり、トフィのような香ばしさも残ります。
Sinigang sa Sampalok
シンガポールにもあるシニガンですが、フィリピンのものはもっと水分が多いスープのような仕上がり。スペインの植民地になる前から存在する、独自の料理です。地中海で獲れる赤い海老、カラビネーロ海老を使ったもの。上のパスタのようなものは、生のカラビネーロ海老と米粉、片栗粉から作ったもの。ちょっとかまぼこのようなプリッとした食感です。上は、スターフルーツの仲間のbilimbiの花。カタバミに似た酸味があり、きゅうりのような青っぽい香りに、少しだけアントシアニンのニュアンスもあります。下には甘みたっぷりのカラビネーロ海老と、冬瓜のような食感のチャヨーテ、ピクルスにした大根、塩漬けにした緑のトマトがしっかりとした食感と緑の香り。カラビネーロ海老から取ったスープは、酸味のあるタマリンド、根セロリやフェンネル、玉ねぎなどの他に、焦がしトマトを入れていると言うことで、しっかりとした甘みとほんのりとしたスモーキーさ。オリーブオイルのすっきりとした緑の味も効いています。タマリンドの酸味とバランスをとるために、カイランのピュレを添えて。
Matsu 'El Recio' Toro 2014
印象的なラベルは、醸造家ではなく、ぶどうの造り手たちの写真。バイオダイナミック農法で育てられたテンプラニーニョ100%のワインです。ボディのしっかりとした甘いスパイス、ダークフルーツのジャムのような味わい。
Bistek
フィリピンのステーキ、ビステック。醤油とカラマンシーを使った甘いソースに漬け込んだオーストラリア・レンジャーバレー産の和牛とアンガス牛の交配種を使って、フライパンで焼き上げ、キャラメリゼした醤油の甘いソース、桜の木でスモークしたオイルとバター、クリームをほんの少し入れた、焦がしたネギのソースを添えて。上にはネギの緑の部分の千切り。少し粘りのある緑の茎は、ニンニクの芽。
この牛肉は、牧草と穀物で飼育され、最後は穀物で肥育されたと言う牛で、肉質はしっかりしていますが、和牛の血、また穀物肥育ならではの甘みのあるお肉で、このソースの甘辛味とよく合っていました。しっかりマリネされた和牛の表面の焦げたところがとても香ばしく、白いご飯が欲しくなる味でした。
Pre-Dessert Halo-Halo
プレ・デザートは、最近日本でも人気のフィリピンのデザート、ハロハロ。
紫のヤム芋のソルベはあまり甘くなく、黒ライムの粉と皮の酸味が効いています。下には、キャラメルポップコーン、ココナッツミルクで煮たタピオカ、コーヒーゼリー、甘く煮た小豆が入っています。意外な組み合わせなのにしっくりと来るのは不思議。
Gonzales Byass 'Cuatro Palmas' Amontillado, Jerez
魚醤を隠し味に加えたチョコレートケーキには、シェリー酒を合わせて。魚醤の香りと旨味に、シェリーの参加熟成の複雑味がよく合います。
Tsokolate
Tsokolateとは、フィリピンではホットチョコレートドリンクのことを指すのだとか。
フィリピン・ダバオ産のカカオ豆を使ったMalagosチョコレートを使ったチョコレートケーキ。Malagosは、2015年のInteranational chocolate awards のチョコレートドリンク部門で受賞したこともある、フィリピンのチョコレートメーカーです。72%カカオのチョコレートに、フィリピンのPatisと呼ばれる魚醤をほんの少し入れて、上にもフィリピンの海塩を散らしてあり、さらにカラマンシーを砂糖と塩で3ヶ月間漬けたものの果肉を混ぜてから漉してホイップした、甘くないクリームが敷かれています。
チョコレートケーキ自体の甘みは控えめで、むしろ食事のような味のバランス。フィリピンというと甘いデザートのイメージがあったので、これは意外でした。
Cassava Cake
もっちりとしたキャッサバケーキに、ココナッツアイスクリーム、ココナッツの果肉をキャラメリゼするまで煮詰めたチャツネ。濃厚な旨味と塩気が感じられます。こちらも、甘さ控えめ。同じ、スペインやポルトガルの影響を受けているブラジルにも、こういう形のケーキがあって、結婚式で食べたりするんだ、とIvanシェフ。
最後はNouri定番の、箱根寄木細工の箱に入ったナツメグの果肉のシロップ煮を。
まだまだ知られていないフィリピンの料理を、モダンフィリピン料理という形で提供しているToyo Eatery のJordyシェフ。Ivanシェフが、そのフィリピン料理と世界の料理との共通点を見つけるアプローチで、自身の料理哲学を表現し、さらに身近なものとしてフィリピン料理を感じられるコラボレーションでした。
<DATA>
■4 Hands- Jordy Navarra and Ivan Brehm
日時:2017年10月2日、3日(終了)
■ Nouri(ヌーリ)
営業時間:ランチ 11:30~15:00(平日のみ)、ディナー 18:00~24:00(LO22:30、月曜〜土曜)、日曜休
住所: 72 Amoy Street, Singapore 069891
電話: +65 6221 4148
アクセス:MRTテロック・エア駅から徒歩4分ほど
筆者
シンガポール特派員
仲山今日子
趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。
【記載内容について】
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