[香港]アジアの視点で、フランスの豊かな食材を表現「Caprice」
フォーシーズンズホテル香港のフレンチのメインダイニング、Caprice。美しいハーバービューを望む開放的なレストランです。
去年、2017年の4月からキッチンの指揮をとるのが、Guillaume Galliotシェフ。ミシュラン二つ星に続いて、2018年のAsia's 50 Best Restaurants でも46位を獲得しています。
Guillaume シェフは、目をつぶっていても、食材の味がはっきりと感じられる料理を作っていくと語ります。フランス・ロワール出身。若くしてシンガポールのラッフルズホテルの料理長、そして北京のラッフルズホテル、マカオのThe Tasiting Room と、アジア各地で料理をして来たシェフですが、香港は日本からのアクセスが良く、自由港のため、ヨーロッパの食材も日本を中心とするアジアの食材も手に入りやすいと語ります。
しっかりとした骨格の、Pierre Paillard のロゼのシャンパンでスタート。
フランス料理といえば、高いだけでほんの少しの分量しか出てこない、というのではなく、しっかりと食べ応えのあるポーションで出して行きたいと語ります。
前菜も、いわゆる一口サイズの手でつまむアミューズ類はなし。
パンは、いろいろある中から、栗の入ったサワードゥをいただきました。
優しい栗の自然な甘い香りと、心地よい発酵の香り。スターターはなんと、カリフラワー。
レストランができた時に作って以来、12年大切に育てて来たスターターなのだとか。
日本のうなぎを、うなぎのタレのような甘いソースで仕上げ、スモークをかけた冷製、そして人参やチャイブなどをごく細かく刻んだサラダ。そして、ナッティさのある、たっぷりのキャビア。
そして、驚いたのが、ペアリング。ピート香のある、秩父のウィスキーと合わせて。
しっかりしたアルコールのボリュームが、甘みと脂があるうなぎの濃厚さを程よく切るようなペアリング。芳醇で複雑なスモーク香が、うなぎのスモークの香りに、近いトーンの香りならではの奥行きを与えます。
オーストラリアビーフのタルタルは、卵黄とパセリを周りにドット状にあしらって。卵黄の代わりにたっぷりのキャビア。
タルタルには、濃厚な旨味のGillardeauの生牡蠣を混ぜ込んだ、海と山の旨味を加えた一皿。少し甘めの味付け、そして牡蠣の自然な甘みが生きています。
そして、シンガポール時代に、「これなくしてはシンガポールで過ごせなかった」というくらいお気に入りのラクサを、フレンチに仕立てあげました。(ちなみに、シンガポールのお気に入りのラクサは、Katong Laksaなのだそう)
ガラスの蓋をあけると、ふんわりと清々しいすだちと、懐かしい、でも少しマイルドになったラクサの香り。ほのかな甘い香りはサフランから。
そのほかにも、ラクサのエスプーマには、ココナッツミルクだけではなく、乳製品のクリームを半々に混ぜて、ココナッツミルクに親しみがない人にも食べやすくしたり、香ばしさとコクを加えるヘーゼルナッツでアレンジをしてありますが、味は妥協のない本格派。ラクサエスプーマにはなんと、シンガポールから輸入したキャンドルナッツも使っているのだとか。
「ラクサ」にしても、マカオに来て、初めて作った試作は、シンガポール人の奥様に「これ一体何?」と、全くラクサだと認識されなかったとか。それから毎日、一ヶ月間試作を続けて、やっとお墨付きがもらえたのが、現在提供しているものの原型になっているのだそう。
たっぷりとしたクラブケーキのような、アラスカ産のキングクラブは、ほんのりと塩味が効いていて、少し甘めのラクサエスプーマと好対照です。小さなコリアンダーの芽を散らし、果実味の強いカラマンシーの代わりに、すっきりとした日本のすだちを使っているあたりも、シンガポールよりも北で、かつ日本に近いロケーションの香港らしいアレンジのように感じました。
魚は、オヒョウ(Halibut) 。
季節のモリーユ、グリーンアスパラガス、ソレル、海老のストックを煮詰めたものを添えて。この海老のストック、「旨味や香り成分がなくなってしまうから」と卵白による清澄をしない代わりに、ブルーシュリンプというエビを使い、殻だけでなく、背わたを抜いた海老の身も贅沢に使って作っているのだとか。脂の乗ったオヒョウの身自体に、カニや海老の甲殻類のニュアンスがあり、このソースとぴったりと合っていました。
そして、しっかり動物性の油分を使った濃厚なモリーユのソースと、茹でずにごく少量の、野菜のストックを使い、アスパラから調理中に出る水分を含め、野菜のエキスで煮詰めたようなしっかりとしたアスパラ。この組み合わせも、春を感じる一皿です。ほんの少しイエローワインを使ったソースが、コルトン・シャルルマーニュと合っていました。
そして、肉はロワール産のエトフェの鳩。
表面にフライパンで焼き目をつけてからカカオニブやローズマリーなどのスパイスをまぶし、ベトナム・Marouのカカオ農園から手に入れたという丸のままの生のカカオ豆の中身を取り出し、殻だけを乾燥させたものを器がわりに、中にローズマリーなどを敷き詰めた上に置き、オーブンで、まるでパン生地や塩釜で焼く時のように間接的な火入れで焼き上げます。
カカオニブを噛むたびに、ふんわりと香ばしいカカオの甘い香りが広がり、横に添えたキャラメリゼした玉ねぎのピュレが甘みを加えます。ソースはしっかりと古典的なジュのソース。フォンドボーや赤ワインを入れず、鳩のジュに酢を加えて作っているそうですが、とても濃厚な味わい。
同じく、野性味と、大地のニュアンス、土の香りのある、シェフのふるさと、ロワール産トリュフのスライスをたっぷりと添えて。
サイドは、刻んだタラゴンと合わせた西洋ごぼう、サルシファイ。
トリュフやカカオの大地の香りに合わせて、ジュヴレ・シャンベルタンを。
2018年のAsia's 50 Best Restaurants でBest pastry chef にも選ばれた、Nicolas Lambertシェフによるデザートは、カカオつながりで3種類のチョコレート。
盛り付けの綺麗なドットの細かい仕事にも、ガストロノミーとしての美意識を感じます。そして、一口ごとに、ホワイトチョコ、薄いベージュがグアナラ、濃い茶色がマンジャリと、味わいを変えてあります。
下から順に、ココアサブレ、カリカリに仕上げたヘーゼルナッツ、ピーカンナッツ入りのホワイトチョコレートのブラウニー、ホワイトチョコレートのグレーズで仕上げたムース、髪の毛ほどの細さに絞り出したパリパリのチョコレートと3種のチョコレートのクリーム、海塩を加えてキャラメリゼしてカカオニブ、そして全部のテクスチャを、一口ごとに味わえるよう工夫されています。
Guillaumeシェフ、前出のラクサの他にも、そのほかにも、シンガポールでもブアクルアの実を使ったりと、「見た目はフランス人かもしれないけれど、15年アジアに住んでいるから、アジアの味覚もよく理解しているよ」とのことでした。
大切なのは、理解しているものを作るかどうか、ということなのだと感じる今日この頃。面白いからやってみた、ではなくて、本当に本物の味を食べて、さらにそれを何度も繰り返して作って初めて、うわべだけではない本物になる。
何度も繰り返し、もっとよくなる方法はないか、を考えていく。きっと、どんな種類の「ものづくり」にも当てはまる気がしますし、それが、作っている料理に、ある意味魂が宿り、生きたものになるということであり、洗練ということであるようにと思います。
また、アジアだからこそのフランス料理についても考えることの多い今日この頃。アジアならではのアイデンティティとはなんなのか。多くのシェフにインタビューさせていただいて感じるのは、それは、食材のバラエティや使い方にしても、そこで感じる自然さ、であり、そこで生き、地元の人が食べるものも食べて暮らし、毎日の季節感を含めた感性であるような気がします。その感性を研ぎ澄まして、毎日アップデートされる自分の味覚で、どんな風に提供していくか。
それが、アイデンティティある料理、ということなのかもしれない、と思ったひと時でした。
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営業時間:ランチ 12:00~14:30、ディナー 18:30~22:30(無休)
住所:Four Seasons Hotel Hong Kong, 8 Finance Street, Central, Hong Kong
電話: +852 3196 8860
アクセス: 香港駅から徒歩10分
https://www.fourseasons.com/jp/hongkong/dining/restaurants/caprice/
筆者
シンガポール特派員
仲山今日子
趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。
【記載内容について】
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