[マカオ]緻密に、軽やかに仕上げた正統派フランス料理「The Tasting Room」
マカオの大型複合リゾート施設、City of Dreams Macau、その中にあるミシュラン二つ星のフランス料理のファインダイニングが、The Tasting Room です。
去年の春から、キッチンの指揮をとるのは、これまで香港のCapriceで厨房を率いていた、Fabrice Vulinシェフ。
フランスの料理マスターズ協会、Maîtres Cuisiniers de Franceのアジア地域の代表でもあります。
多くのキッチンスタッフが働くキッチンを眺められる特等席、シェフズテーブルでいただきました。
最初は、Dom Perignon 2009で。ナッティーなボディのある味わいです。
続いて、アミューズ。
カダイフをボール状にしたフライに、スモークサーモンの角切りとイクラを乗せたもの。
フォワグラのクリームが詰まったシューに、アクセントにパッションフルーツの種を乗せたパッションフルーツのゼリー。
特にこのフォワグラの滑らかなクリームがとても印象的でした。
「カニの天ぷら」と出してくれた、しっかりイースト香のあるふんわりとした生地に包まれたフリッター。
Poached Gillardeau Oyster, Shellfish Tartare Sea Water Jelly, Ginger Cream, Lemon Confit
「牡蠣のロールスロイス」と呼ばれることもあるフランスのブランド牡蠣、Gillardeauは、低温でほんのりと火を入れて味を更に凝縮させて。独特の、青海苔のような濃厚な味わいは、この牡蠣ならでは。殻を開けた時出る牡蠣のエキスをアガーで固めた海水のゼリーで、殻を開けてそのまま牡蠣を食べているかのようなみずみずしさを表現しています。牡蠣の海のクリーミーさに更に軽やかな乳製品のコクを加える生姜のクリームとレモンのコンフィ。ハマグリやマテ貝などの貝類を刻んだものが下に敷かれ、みずみずしい甘みとサクサクとした噛み心地が楽しめます。
殻の外には、クロロフィルとクリームのドット。
ワインはミュスカデのシュールリー。軽やかな青リンゴや洋梨の香り、すっきりとした酸味とほのかな甘みが、牡蠣によく合います。
次は、同じ白でもボリューム感をあげて、オーストリアのワイン。動物性の、ウールのような香りとしっかりとした味わいがあります。
Brittany Lobster, Watermelon and Yuzu Vinaigrette
Fabriceシェフのシグネチャーの一つ。ブルターニュ産のブルーロブスターを使った前菜。
薄く切ったスイカをベースに、茹でたロブスターを刻んで柚子のビネグレットで和えたもの、薄いロブスターテリーヌの層、ロブスターコンソメのゼリー、ロブスターのカルパッチョが乗っています。クリスタルキャビア、ボリジ、ソレル、そして青リンゴ、スイカ、フェンネル、アボカドのクリーム、ホイップした甘くない生クリームなどがたっぷりと乗っています。
テリーヌはニンニクの味の効いた、オーセンティックな味。コンソメゼリーも、ロブスターの旨味とともに、ローストした野菜類の甘みが感じられるしっかりとした味わい。それらが、たっぷりとしたロブスターの身と共に、美しいレイヤーを作り、一つのお皿に盛り付けられている贅沢さ。
サイドにはスイカの小さな角切りを散らした、酸味の効いたアボカドのクリーム。
スイカのほのかな甘みと水気が、全体を軽やかに仕上げます。
そして、Fabrice シェフの友人でもある、著名な牧場主、Alexandre Polmard の牛肉を使ったタルタル。
Surprise of Beef Tartar
牧草育ちの牛肉は、とてもスムースなテクスチャで、フェンネルやセルフィーユのような植物性の、濃厚な甘みがあります。
部位は、ステーキに使われるランプ、程よい噛み心地があります。それと香りを重ねるように、タルタル全体をセルフィーユとニンニクをほのかに効かせた生クリームのドットで囲んであります。
その上には、スコットランドのウィスキー、Laphroaigの25年もので贅沢にスモーキーな香りをつけたビーフコンソメゼリー、上には塩味のチュイル、その上にごく細かい玉ねぎを刻んだものが乗った生クリーム、卵黄がわりのクリスタルキャビア、セルフィーユ。
中のタルタル自体にも、このコンソメゼリーが角切りになって混ぜ込まれています。
続いては、Double Beef Consomme, Cabbage Ravioli and Foie Gras
トリムした牛肉に、玉ねぎ、人参、シャロット、長ネギなどを入れて煮出したスープを24時間寝かせ、さらに別の牛肉や野菜を加えてダブルボイルし、4日間かけて清澄したというダブルボイルドコンソメスープ。
(フランスの産地訪問の様子を拝見しながらいただきました)
ちりめんキャベツの上には黒トリュフとフォワグラのクリーム、間にはフォワグラ、細かく切ったズッキーニやニンジンなどの野菜、そして温かいダブルボイルドコンソメを注ぎます。ダブルボイルドコンソメの強いうまみからくる苦味がフォワグラの甘みをひきたてます。
クラッシックなちりめんキャベツのミルフィーユの再構築のような作り。
ワインはジュヴレ・シャンベルタン。
まだ若いけれども、後味のスミレの香りのボリュームが高く、これからますます楽しめそうなワイン。牛肉のコンソメに合わせて。この後、魚料理に合わせて白ワインに戻ったのですが、そんな意味でもちょうど良かったです。
ワインは後味にナッティな余韻が残り、それが、コンソメの苦味と綺麗に重なり合います。
続いては、魚、スズキの一種、シーバスの一皿。Hot Stones Steamed Seabass Sauce Vierge and Cauliflower
合わせたのは、重めの乳製品の香りなどを感じる、マロラクティック発酵したムルソー。
ストウブの両手鍋の中に400〜500℃になるという火山石を敷き詰め、その上に、オレンジの皮やセルフィーユ、シナモンなどを乗せ、フォイルごとスズキを乗せます。
最後に、魚の出汁に粒胡椒やローズマリー、レモンとオレンジの皮、ベルモットのノイリープラットを混ぜたものを注ぎ、蓋をして蒸し焼きにするというスタイル。
鳥の手羽と魚の骨をリダクションして作った茶色のソース、そしてオリーブオイル、
オリーブ、トマトコンフィ、レモンコンフィ、バジルオイルなどを混ぜたソースを乗せて仕上げます。
サイドにはなめらかで重すぎない、カリフラワーのピュレを添えて。
柑橘と甘いハーブの香りをまとい、ふんわりと仕上がったシーバス、酸味のあるレモンとトマトのコンフィ、オリーブやバジルなどで地中海風に仕上げてあり、コース後半に差し掛かり、お腹が重くなってきた頃に、この軽やかな魚がちょうど良かったです。上にはネギの香りよりも、緑の香りが特徴的なチャイブの仲間の花を添えて。
Fabriceシェフは、南フランス、Hautes-Alpes出身ということで、このあたりの軽やかな味わいは故郷の味でもあるのでしょう。
Beef Tenderloin by Alexandre Polmard, Vintage 2005, Artichokes, Potatoes Souffles
そして、今回一番気になっていた、ヴィンテージ・ビーフをいただきました。2005年から13年間寝かせたテンダーロイン。
Beef Tenderloin by Alexandre Polmard, Vintage 2005, Artichokes, Potatoes Souffles
フライパンで丁寧に焼き上げてあります。
フランス北東部、ロレーヌ地方で、著名な牧場主、Alexandre Polmardが育てる、脂肪分の少ないアキテーヌブロンド種の2歳の牛、通常の牛肉と同じように、3週間エイジングした後、冬眠(hibernation.)というプロセスを経ています。具体的には、真空パックに入れて、−43度の環境下で、時速120キロメートルの冷風を当てて急速に冷凍することで、品質の劣化なく長期に保存ができるというもの。
ヴィンテージビーフになる牛は、週に2頭程度で、手間もコストもかかるため、ごく限られた分量しか手に入らず、扱っているのは、アジアではこのThe Tasting Roomだけ、フランスでも、Guy SavoieやArnaud Lallementなど、ごく限られた、三つ星レストランが使っているという貴重なもの。
一口食べると、テンダーロインならではのきめ細かい舌触り、生のようなジューシーな肉質。そしてタルタルと同じように、みずみずしい甘いハーブの印象。
ソースは牛肉のジュのソース、肉の下には細かく刻んだ黒トリュフが忍ばせてあり、旨味を後押し。こんな見えないところでの贅沢が、味の印象を大きく変えるもの。
ボルドーの Chateau Cos d'Estournel のセカンドワイン、しっかりとした骨格のある味わいは、「ヴィンテージ」と名付けた牛肉に引けを取らないもの。青草の味わいに、カベルネ・ソーヴィニヨン特有のビーマンの香りが合います。
アーティーチョークを様々にアレンジしたサイド。
円形のものは茹でて、チップはドライに、もっちりしたピュレのようなニョッキ、そして下には、発酵バターと混ぜたピュレ。
綺麗にふんわりと膨らんだ、ポム・スフレ。
デザートは、Rum Baba,Tahitian Vanilla Mascarpone, Raisins and Rum Ice Cream
ババに、タヒチ産ヴァニラのマスカルポーネクリームをたっぷりと乗せ、ラムに漬けた3種類のレーズンを敷き詰めた、同じヴァニラのアイスクリーム。
バニラビーンズの食感が感じられるほどたっぷりと贅沢に使ったクリームを、温度差の違いで楽しむという趣向。
シロップにはレモンピールの苦味が効いていて、甘すぎずすっきりといただけます。バカルディの8年もののラムを、好きなだけかけて。
レーズンと重なる、ドイツの遅摘みのリースリングのワインと共にいただきました。
訪れたのは、一週間に渡っての食べ歩きの最終日、それにも関わらずとても印象的だったのが、食べれば食べるほど、お腹はいっぱいのはずなのに、もっと食べたくなり、次の皿はどんなものが出てくるのだろうと期待させてくれる料理ばかりだったということ。
13年前の牛肉の味をそのまま今に伝えるヴィンテージ・ビーフと同じように、クラッシックな味わいを保ちつつ、繊細な仕事を重ねて、軽やかに現代風に表現する。一つ一つのディテールの質の高さ、完成度、どれをとってもとても満足できます。正統派フランス料理の美しさを感じられる、レストランです。
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■The Tasting Room(ザ・テイスティング・ルーム)
営業時間:ランチ 12:00~14:30、ディナー 18:00~22:30(無休)
住所:Level 3, NÜWA, City of Dreams, Estrada do Istmo, Cotai,Macau
電話: +853 8868 6681
http://www.cityofdreamsmacau.com/en/dining/detail/tasting-room
筆者
シンガポール特派員
仲山今日子
趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。
【記載内容について】
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