[パリ] 揺るがないオリジナリティ、三ツ星「L'Astrance」

公開日 : 2018年06月27日
最終更新 :

世界を旅した味わいを、オリジナリティあふれるスタイルで提供する、小さな三ツ星レストラン、L'Astrance(アストランス)。

Pascal Barbotシェフは、アラカルトではなく、「カルト・ブランシュ」と呼ばれる、いわゆるお任せコースをフランス料理に持ち込んだパイオニアでもあり、日本の10年連続三つ星「カンテサンス」の岸田周三シェフが修業した場所でもあります。

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エッフェル塔を望むセーヌ川沿いから一本道を入り、建物に入ると、香ばしい香りがふんわり。決して広くない店内ですが、美味しいものを愛する人たちで溢れているのがわかります。

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アミューズ

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アーモンドの味の甘い板に、青リンゴのクリームが挟まっています。アーモンドエッセンスなのか、麝香のような香りが残る、香り高さが印象的でした。

キャベツとパセリのクリームのタルト、上には、飾りだけでなく、しっかりと味のある、チャイブやコリアンダーの花を乗せて。

シグネチャーの、マッシュルームのミルフィーユ。

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一番下は、フィロのような薄いタルト生地、生のマッシュルーム、そしてフォワグラと、香りの良い塩漬けの青リンゴが重ねてあります。上から、ライムの皮、セップ茸の粉を振りかけて。

右はヘーゼルナッツオイルのエマルジョン、もう一つはライムコンフィ。

しっとりとしたマッシュルームの自然な甘みが何よりも魅力的な一皿でした。

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パンは結構しっかりと発酵した、酸の強い香りがします。

海老の一皿は、先に一口サイズのフィロに包まれた生姜とミント、コリアンダーを食べてからいただきます。これが、びっくりするくらい生姜の辛味が効いています。

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まるで、飛行機でフランスからいきなりアジアに連れて行かれたような、そのインパクトが残ったままで、アジアな味わいのサテソースを使ったエビをいただきます。

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抜群の火入れでふんわりとした海老、インドネシアに行ったことがあるPascalシェフの記憶から、濃厚なガドガドを思わせるソースを合わせてあります。ピーナッツ、シュリンプペースト、カフィライムなどが絡み合ったソースは、ボリューム感もたっぷり。上にはキャベツとベビーパセリが乗っています。

続いては、ナムルのような野菜の並べ方が印象的な、春野菜の一皿。

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味にもごま油和えなどを使っていたので、韓国にインスピレーションを受けた一皿かをPascalシェフにお聞きすると、その通りで、実は韓国から帰ってきたばかりなのだとか。

中心にはベルガモットのクリーム、日本人だからか、桜葉のクマリンの香りを一番最初に感じました。

その他、千切りのキャベツと黄色と紫のネギ科の花、スティックブロッコリー、ごま油とごまで和えた絹さや、シャロットをかすかにクミンの香りがある蜂蜜ビネガーにつけたもの、苦い、ちょっとライムみたいな香りもある、松の若芽のような野菜、少しココナッツウォーターにつけてあるような印象のきゅうり、ほのかに甘く苦い金柑のシロップ煮、蜜の味がしっかりあるマメ科の紫の花、タラゴンオイルで和えた若いグリーンピースは軽くゆがいただけ、火を通しすぎないモダンな印象。若いので、皮が薄いのだそう。

今度はごま油で和えたきゅうり、あく抜きをしたからか、とても柔らかく煮た、後味が独特の香りがあるワラビのような山菜。甘いレモンコンフィ、大根など、様々な味わいのパレット。

オーストラリア産の、脂がのった上質な銀ダラを、蒸してからフライパンで表面を香ばしく焼き、ブールブランに醤油を合わせたソースでいただきます。

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驚いたのは、コシヒカリの酢飯のリゾットが添えられていたこと。日本人からすると、酢飯がリゾットのようなテクスチャになっているのは馴染みがありませんが、フランスではお米も野菜のひとつと捉えられていると聞きますし、ブールブランに甘みと酸味を与える付け合わせとして考えられているように思いました。横のソースは、銀ダラの肝に少しクローブを入れたソース。酸味のあるソレルの葉を添えて。

ブールブランはクラッシックなソースですが、基本的にPascalシェフはソースよりもジュの方が好きなのだとか。

肉の一皿目は、オーベルニュ地方の豚バラ肉を塊のまま20時間70度で真空低温調理したもの。

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Pascalシェフは、赤身の肉や魚には真空低温調理を使わないそうですが、白い肉の豚肉や仔牛には使うそう。

しゃぶしゃぶのような豚バラ肉は、やや低めの温度で提供され、絹さやや大根、ルッコラのような葉野菜、四川花椒のオイル、スモークパプリカとラズベリーの粉、スイートチリソースという組み合わせ。酢豚やエビチリを思わせるような、中国料理風の味付けでした。 

そして、肉の二皿目は鴨。

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肉の火入れに定評のあるPascalシェフ、「本来は炭火で焼きたいところなのだけれど」屋内にも、屋外にもその場所がないため、オーブンで焼いています。250度で2〜3分焼いてはオープンから出すのを4-7回繰り返して焼き上げる鴨は、とてもシルキーでジューシー。

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「もともと軽やかな味が好きだし、素材そのものの調理の仕方に焦点を当てているから、肉が柔らかくジューシーなら、重たいソースはいらない、ただ、香りと食欲を増すものとしてソースが必要と考えている」、ということでした。

グリーンピース、絹さや、フルーティーさのある甘みと酸味、辛味が弾けるブラジル産の小さな唐辛子の酢漬けを添えて。フルーツ感が重なるラズベリーのパウダー、サイドのグリオットチェリーのピュレは、濃厚なチェリーの味わいに、少しアマレットの香りを感じました。

ソースは少し味噌のような発酵の味があるものに、生姜の香りを添えて。

鴨と相性の良い、フリーズドライにしたシダーウッドのような針葉樹の葉も。

サイドのパテは、カリカリの薄い生地の上に、鴨のレバー、ジュニパーベリー。

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塩気はやや控えめで、濃厚な料理ですが、食べ疲れず軽やかに仕上がっていました。

唐辛子とレモングラスのソルベは、かなり、ピリピリするスパイシーな味わいのもの。

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全体的に、正確な技術に基づいた火入れと、ジェットコースターのような、インパクトが強く意外性溢れるコース展開。スパイスの利かせ方がはっきりしていて、香りも味わいもボリュームが高くて幅が広く、とても冒険的で刺激的な味わいを提供しているのが印象的でした。

デザートは、全体的に、タイの味わいを感じる一皿。

ラズベリーとルバーブのタルト。

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上にはジャスミンのムースに、オリーブオイル、アカシアの花と矢車菊。フレッシュなアカシアの花の甘い香りが、ジャスミンと合っていて、またアカシアの花のほんのりとした緑っぽさが、オリーブオイルに合います。アカシアは西洋のジャスミンという捉え方をしているのかも、と感じました。

ヘーゼルナッツのサブレの上に、アカシアの蜂蜜の層があり、ルバーブとラズベリーはしっかりと煮込まれていて、フォームの柔らかさとテクスチャがあっていました。

食後にフレッシュフルーツを提供するのも、タイらしいコンビネーション。

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ラズベリー、りんご、いちご、マンゴー。イチゴやラズベリーよりも、マンゴーの美味しさが印象的でした。

卵の殻に入ったタイ風のジャスミンウォーターのフォーム。

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周りカリカリバターリッチな、栗の蜂蜜のフィナンシェで、Pascalシェフによる食の旅は終わり、フランスに帰ってきます。

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2週間前にチェジュとソウルに10日間行って来たというPascalシェフ、旅で得た味からアイデアを得て、自分なりに解釈して、フランスの食材で表現するのが自分のスタイルなのだと言います。

高い技術で調理したものを珍しい異国の食材のアクセントで楽しむレストラン。フランス料理というよりも、フランス料理の技術を持つPascalシェフが、旅でえたインスピレーションを料理の形で提供し、ゲストもまるで、Pascalシェフと一緒に旅するような、そんな楽しみ方ができるレストランです。

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翌日インタビューをさせていただきましたが、ちょうど、アプレンティス(Apprentice)と呼ばれる見習いの若者たちがいました。16歳〜18歳の料理学校の学生たちが、2週間レストランで働いて2週間学校に通う、というシステムだそう。

「こういった見習いを受け入れるのも、料理の継承のため」とPascalシェフ。「テクニックは学校で学べるもの、私が教えたいのは、素材への敬意はもちろん、料理で、自分の歴史を表現しなさい、ということです。

例えば、私がココナッツミルクを使うのは、私の歴史とつながっているからです。私は20歳の時にニューカレドニアに行って、クリームがなかったので代用品としてココナッツミルクを使うことにしたのです。それを発見したのは、私で、それは私の歴史です。ですから私は若い人たちに、料理は自分の歴史を表現する手段であるということ、だからこそ、コピーするのではなく、自分の内側から見つけたものを使いなさいと伝えたいのです」

自分のストーリーを伝える、というのは、今は一般的な考え方になりつつありますが、その先駆けとなったのはPascalシェフと言えるかもしれません。

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そして、三つ星のシェフでいるというのは、ストレスの多いものではないか、と想像して、長年三ツ星を取り続けていることについてお聞きすると、

「三ツ星はありがたいと思いますが、私にとってのゴールではありませんから、重たいと感じたことはありません。私にとって大切なのは、レストランが昼も夜も満席であること、ゲストが満足すること。それを続けていくことです」。という答えが返ってきました。

長く最高の場所で輝き続けるために重要なのは、純粋に料理を愛し、料理を作り出すことに純粋な喜びを感じていること。自分がオリジナルであるからこそ揺るがない。そんなPascalシェフのスタイルの、圧倒的な存在感を感じたひと時でした。

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■L'Astrance (アストランス)

営業時間:ランチ 12:15~、ディナー 20:15〜、土曜〜火曜休

住所:4 Rue Beethoven, 75016 Paris, France

電話:+33 1 40 50 84 40

http://www.astrancerestaurant.com/?page_id=31

筆者

シンガポール特派員

仲山今日子

趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。

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