金メダルを取っちゃった世界一ラッキーな男

公開日 : 2002年02月19日
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シドニーの街がオリンピック一色に染まったのが、今からたった1年5ヶ月前のことだとは信じがたい。ソルトレーク冬季五輪がどんなに盛り上がったとしても、今のこの世界情勢じゃ、あの時のシドニーのような「あっけらかんとした陽気なお祭りムード」は、あり得ないのだろうと思う。オーストラリアは「スポーツ大国」と言われているが、ウインタースポーツは人気がない。年中マリンスポーツができる環境なのだから、仕方がないのかもしれない。それでも、今回のソルトレークには、27人の選手を送り出した。その中で、金メダルの可能性がもっとも高かったジャッキー・クーパー選手は、現地で練習の際にケガをして帰国の途に。なんとなーく沈滞ムードが漂っていた。そんなところに飛び込んできたのが、「南半球初の冬季五輪金メダル獲得」のニュース。「いったい誰が?」というのが、関係者を含めての反応だった。ショートトラック男子1000メートルのスティーブン・ブラッドバリー選手である。レースはあと1周をきって、最後尾。ここから2人抜いて銅メダルに食い込むのさえ、ほとんどムリだと誰もが思う。まして、金メダルなんて。ところが、よりによって最終コーナーで前を走る選手が転倒する。それも次々に4人も。何が起こったのか把握するまでの短い間に、彼の表情がゆっくりと変わり、とびきりの笑顔になって、ゴールを通過し、スタンドに手を振ったのが印象的だった。繰り返しテレビで放映されるそのシーンは、何回見ても笑ってしまう。「勝っちゃった」という彼の顔。ショック状態のほかの選手。驚きを隠せない応援団。同じ日には、冬季五輪で中国初の金メダルを獲得した楊揚選手の様子が放映されたが、そこからひしひしと伝わってくる「悲願達成!」ムードとはあまりにも対照的だった。ブラッドバリー選手は4回目のオリンピック出場、10年選手である。リレハンメルではリレーで銅メダルを取っている。転倒とも無縁だったわけではない。たまたま今大会が始まる前に、テレビで彼の過去のレースの様子を見たのだが、ほかの選手のスケートの刃が足にささって、111針縫ったり、壁に激突して、首の骨まで折ったり。それでも「この競技に転倒はつきものなんだ」とあっさり語っていた。今大会では準決勝でも、目の前を先行するほかの選手が転倒。「決勝では2人こけたら銅メダルだな、と作戦を練っていた」と笑わせる。コーチも一緒に「もちろん綿密な作戦。でも、どうだっていいじゃない、彼もハッピー、あなたもハッピー、わたしもハッピーなんだから」と笑う。どこまでが本気で、どこからがジョークなのか、さっぱりつかめない、あまりにもオーストラリアらしい(?)金メダル獲得劇であった。

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