建築家 ルイス・カーンがみた原風景 サーレマー島/クレッサーレ城

公開日 : 2013年08月22日
最終更新 :
筆者 : ica

 建築家のルイス・カーンがエストニア出身だったことは、あまり広く知られていません。タリンで発行されているKUNSTE.EEにカーンの特集号があり、彼とサーレマー島/クレッサーレ城との由縁を取り上げておりましたのでご紹介します。

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写真:ルイス・I・カーン

ルイス・カーンとは?

 光の魔術師として知られるルイス・カーンは、キンベル美術館やソーク生物学研究所などの代表作をもつ20世紀建築界の巨匠の一人です。建築家としてのキャリアは順風満帆とはいえず、50代で遅咲きのデビューを果たし空間と光を生かした独自の建築スタイルを築きました。そんなルイス・カーンですが、実はエストニア生まれのユダヤ系エストニア人です。

 1901年サーレマー島のクレッサーレで生まれたルイス・カーンは、Itze-Leib Schmuilowskyという名前をもつ内気な少年でした。三歳のときに燃えたぎる石炭に顔を近づけて大事故を起こして以来、顔面に残った傷跡が生涯のトラウマとなりました。それは彼の自意識を形づくる一方で、光に対する興味や感覚を養うきっかけにもなりました。

 ロシアの支配下にあったエストニアで日露戦争の徴兵を恐れた父Leopoldは、1904年にアメリカへの移住を決めカーン(Kahn)という名字に改名しました。20世紀初頭のアメリカ社会で有利に生きるため、裕福なドイツ系ユダヤ人に代表される姓をもつことが重要だったからです。一方、ルイ少年はかつて自分の姓、極めて東欧ユダヤ人なSchmuilowskyという姓を周囲にばらさないよう気をつけて生活しなければいけなかったそうです。

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写真:クレッサーレ城。カーンの父親はここでガラス塗装工として働いていたといわれています。トンネルを抜けて左手の建物には鍛冶屋などが数軒並んでいます

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写真:クレッサーレ城(遠景)修復工事中でした

ルイス・カーンとクレッサーレ城の関係

 冒頭に挙げたKUNST.EEでは、ルイス・カーンとクレッサーレ城の関係性についてひとつの仮説をたてています。それは、カーンの建築人生においてクレッサーレ城がインスピレーションの源泉になっているのではないか、という考えです。右仮説の根拠として、本書ではカーンのパスポートの記録や親族からの情報をもとに1928年ヨーロッパを周遊したカーンが、ラトビア経由でサーレマー島に立ち寄ったことを明示します。

 1928年5月渡英したカーンは、グランドツアーの一環でヨーロッパ諸国(デンマーク、フランス、ハンガリー、イタリア、ノルウェイ、フィンランド、ラトビア、ドイツ、スイス)を旅していますが、パスポートのビザやスタンプの記録の中にエストニアの名前は出てきません。また、カーンの残したスケッチの中にもクレッサーレ城をデッサンしたものはでてきません。そんななか、カーンのパートナーだったAnne Tyngの証言から、当時サーレマー島への交通手段は、ラトビアの首都リガからボートを使うのが一般的だったことが分かります。そして、カーン自身が友人に宛てた手紙の中で、1928年7月中旬から8月中旬まで母方の祖母が住むクレッサーレのワンルームフラットに滞在していたことが明らかにされます。

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写真:サーレマー産の人懐っこい猫

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写真:ドイツの出身のちょっとあまのじゃくな夫婦

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写真:撮影に夢中なロシア人カップル。クレッサーレではたくさんの良い出会いとインスピレーションがありました

原風景とは?

 青年ルイス・カーンにとって生まれ故郷はどんな風に映ったのか、故郷のイメージが創作の原動力だったのか、そもそも原風景ってなんだろう。自分にとっては、地元の砂丘だな・・なんてクレッサーレ城を見ながらとりとめのないことを考えていました。笑 学術的な根拠は全くありませんが、絶対インスピレーション受けちゃってるし、ずっと引きずっちゃってたでしょ、と勝手に確信をして締めくくった旅でした。笑

 最後に、ルイス・カーンの人となりを知る上で工藤国雄さんの『私のルイス・カーン』はお勧めです。工藤さんはルイス・カーンの弟子だった方で、ルイの忘れっぽいキャラクターや直感的な働き方を知る上で参考になります。カーン自身が「私には4分の1の良いエストニアの血が流れている」というように、確かに「エストニア人っぽいなぁ」と思わせる記述がたくさんでてきます。笑

リンク:サーレマー自然博物館(クレッサーレ城)

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