作家・米原万里が愛したお菓子、ハルヴァを探せ!(後編)

公開日 : 2015年02月01日
最終更新 :

(前回までのあらすじ:米原万里のエッセイに登場する、旧ソ連のイスラーム圏とその付近で食べられているというお菓子「ハルヴァ」を探す旅に出た、もとい、何かのついでにちょっと探す旅に出た特派員。チョルスーバザールで見つけたハルヴァならぬ「ホルヴァ」は、食べ物にはちょっと見えない代物でした)

チョルスーのハルヴァ.JPGのサムネール画像

屋外で陳列されていたときにはわからなかったのですが、家に持ち帰って、ビニールを開けると、はっと胸を突くような、懐かしい香りが漂ってきました。心象風景としては、「田舎のおばあちゃんの家の仏壇」。もっとも、特派員は祖母(父方)とは実家で同居していたのですが...

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スプーンを入れると、ほろほろと崩れます。口に運んでみると、素朴さという点ではこれ以上ないのでは、というほど素朴な味でありながら、香辛料の効いた神秘的な味がします。甘さはそこまでしつこくはありません。

このバザールで見つけたハルヴァの写真を見たロシア人の友人の反応:

「あ!ハルヴァ!もうずいぶん食べてない!」

「特派員:ロシアでも有名なの?」

「そう、子供が大好きなお菓子だよ」

少なくとも、今でも旧ソ連圏で広く食べられているようです。あと、ロシア語ではやっぱりハルヴァと発音するようです。

4、トルコ風ハルヴァ

 後日、ウズベク人の友人にハルヴァについて尋ねてみたところ、「結婚式などのときに食べる、トルコ風ハルヴァというのがある」と教えてくれました。白い、菱形をしているというので、早速店で探したところ、簡単に見つけることができました。

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 量り売りのところを100グラムだけビニール袋に入れて売ってもらい、帰り道、歩きながら一つ口に運びました。その菱形のハルヴァに歯を当てると、やはりぼろっと崩れます。しかし、バザールで買ったものが、繊維質が残る口当たりだったのに対して、こちらはもっと柔らかい口どけです。たとえるなら、バターのような感じ。ミルクキャラメルのような懐かしく優しい風味でありながら、もっと舌触りが柔らかく、濃厚な味がします。

 その日はもう夜遅かったこともあり、アパート近くのトルコ料理店で夕食をとろうと考えていました。そのトルコ料理店では、トルコ風の濃い紅茶を出すのですが、ふと、「トルコ風と名乗っているからには、トルコ紅茶と合うのでは?」と考えて、トルコ料理店で料理と一緒にいつものように紅茶を頼み、トルコ風ハルヴァをひとかけらかじりながら飲んでみました。濃厚なハルヴァの味わいが、いつもは砂糖を入れないと飲むのに難儀するほど濃い紅茶と、じんわり溶け合います。なんというか、「ああ、"食文化"って、こういうのを言うのかなあ」、という気分になりました。

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 俄然、ハルヴァのことが気になってきたので、友人の中央アジア人に、ハルヴァについて訊いてみました。

「ハルヴァにはいくつか種類があって、スーパーで売られているようなひまわりの種で作られているものもあれば、トルコ風の白いのもあります。あと、ハルヴァイタルという、ちょっと黒っぽいお菓子もあって、お葬式にしか作らない家庭もあるそうです」(ウズベキスタン人)

「昔のお菓子というイメージですが、今でも人気があります。普段はチョコレートとかばかりですが。お祭りのときなどに食べて、結婚式の後、二人の生活がよくなるように、と、新郎新婦にプレゼントします」(ウズベキスタン人)

「どちらかというと、ウズベキスタンでよく食べられているイメージですね。今手元にある、ロシア製のハルヴァには、干しぶどうが入っています。普段食べるもので、友達や親戚を訪ねたときに出された記憶はないですね」(キルギス人)

「紅茶やコーヒーに合いますよ。いま留学で日本にいるのですが、すっごく食べたくなってきました!」(カザフスタン人)

「アラビア語のHalwa(甘い)に由来していて、東洋のデザートと呼ばれています。食べ方は、民族によって異なり、私たちはナウルーズの時に食べます」(タジキスタン人)

※特派員註:ナウルーズとは、中央アジアで3月下旬に行われる、春分のお祭り。イラン由来で、中央アジアにゾロアスター教が普及していた名残。

「ひまわりの種から作られていて、夏によく食べられます」(カザフスタン人)

「婚約したことをみんなに知らせるときに配ります。ビタミンA,B,D,が豊富で、パンに乗せて食べたりします」(ウズベキスタン人)

「ハルヴァはたぶんロシア語の発音で、ウズベク語ではホルヴァになります。他のテュルク系民族や、インド、イランでも有名なお菓子で、日常生活と、結婚式や宗教的・伝統的祭りのとき、また、お客様が来たとき、逆にお客として誰かのところへ行くときに持っていきます」(ウズベキスタン人)

 ちなみに、米原万里さんがその後再会した、「子供のときに食べたものと同じ」ハルヴァは、友人のギリシャ土産のハルヴァだったそうです。また、ウズベキスタンに赴任しているとある古参日本人ボランティアさんの情報によると、コカンドで食べたハルヴァがとても美味しかったそうです。

Q. それではいったい、どこのハルヴァが美味しいのですか?

A. それは...

「ハルヴァの味は食べてみなくちゃ分からないってエンゲルス先生も言っている」

そうです(米原万里『旅行者の朝食』より)。

 では、Ko'rshamiz! (またお会いしましょう!

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