ジョージア語を学んでみて①~サウダージ・ナツノビ・懐かしさ

公開日 : 2021年01月18日
最終更新 :
筆者 : fujinee

現在、旅の記事を書くことがむずかしいので、試行錯誤しながら書いてみたいと思います。

私は昨年の2020年に、半世紀(50歳)の誕生日を迎えました。

もし、

「半世紀生きてきてあなたは何をしてきたのか?」

と尋ねられたら、私は一言で

「音楽」

と答えるでしょう。

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ローティーンの頃、当時の日本の歌謡曲やアメリカのポップスをきっかけに音楽に興味を持ち、そのあとありとあらゆる音楽を聴いてきました。

また10代の頃にドラムという楽器を演奏し始め、これも実は約35年続けています。

ジョージアに来てからは限られた場面でしか演奏できていませんが、いままでの習慣といいますか、暇ができるとドラムスティックとメトロノームを取り出してトレーニングします。

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そのため、私の友人には音楽ファンやミュージシャンが多数います。

そして日本人の友人のなかで特に多いのが、自分の専門であるジャズ関係の人々と並んで、ブラジル音楽系の人々。

昨日、ブラジル音楽系の友人たちとチャットで話しました。

そしてせっかくの機会ということで、以前から聞いてみたかった質問を投げかけてみました。

それは「サウダージ」という単語についてです。

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ブラジル音楽を聴いていると必ず登場する「サウダージ(saudade)」というポルトガル語の単語があります。

ボサノヴァなどのブラジル音楽には常にこのサウダージという感覚が漂っているというのです。

そしてこのサウダージという単語、日本語訳がむずかしい単語として知られています。

ブラジル音楽に親しんできた人のほとんどは、このサウダージという単語について自分なりの解釈を持っているでしょう。

一方、私はあらゆる音楽を聴く反面で、ブラジル音楽にはめっぽう疎いという一面が......。

ですから専門家に聞いてみたかったのです。

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このサウダージという単語について、少なくとも狭義では「懐かしさ」という日本語がそのまま適切な訳として当てられると私は思っています。

日本語に導入するとしたら、

「私は田舎の家の畳のにおいにサウダージを感じる」

といった具合。

もちろん「畳」と「サウダージ」ではミスマッチですが、わかりやすい例だと思います。

その話をすると、その友人もうなずいていました。

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私はこの「懐かしさ」という感情に特別な興味を持つことがあります。

たとえば以前、

「英語には懐かしいという意味の単語がないのではないか」

と思ったことがありました。

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確かに、日本人でも知っている「ノスタルジック(nostalgic)」という英単語は懐かしさを表す単語です。

しかし、私の意見ではこのノスタルジックという単語、専門用語の域に属すると感じるのです。

わかりやすく日本語に訳すと、「郷愁的」とでもなるでしょうか。

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たとえば友人と会話していて、

「私は故郷に郷愁的な思いを感じる」

とはまず言わないでしょう。

つまり専門用語というのは、文章を書くときや、専門家と込み入った話題を論じるときに使う単語。

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1980年代に、松田聖子さんが「SWEET MEMORIES(スイート・メモリーズ)」というシングル曲を歌っていました。

スポークン・イングリッシュで懐かしさをあらわす場合、この「スイート(sweet)」という単語が使われるのだと思います。

しかし「スイート」とは「甘い」という意味であり、「懐かしい」という意味ではありません。

つまり、近い意味を持つ別の単語で代用している訳です。

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その単語が存在しないということは、会話においてその感情を表現する必要がないということ。

つまりイングリッシュ・スピーカーには懐かしさという感覚が乏しいのではないか。

暴論ではありますが、そう思うことがあります。

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ここでそもそも、

「懐かしさという感情は有益か、無益か、はたまた有害か?」

という問いが生まれます。

この問いについて私は、

「少なくとも音楽においては、そこにエモーショナルな色を加えるよさがある」

と思っています。

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さて、最近ジョージア語の学習をしています。

今まで習得したジョージア語の単語のなかに「ナツノビ(ნაცნობი)」という単語があります。

これはまさに「懐かしさ」を表現する単語だと感じました。

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この「ナツノビ」の英訳を調べると"familiar"や"acquaintance"といった単語が出てきます。

つまり「おなじみの」「よく知った」という意味になるでしょう。

この単語、私が好きなジョージアのバンド、ニノ・カタマゼ & インサイトの代表曲である「ワンス・イン・ザ・ストリート」の歌詞に登場します。

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(原詞)

ქუჩაში ერთხელ

ნაცნობმა ქარმა

მე მომიტანა

სურნელი თმების

სურნელი თმების

ის იყო შენი

ასე ნაცნობი

და მრავალფერი

(私の訳)

あの時、あの通りで懐かしい風が

私に髪の香りを運んできた

それはかつてのあなたの髪の香り

とても懐かしく、そして多彩

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ここで「ナツノビ」をそのまま「懐かしい」としてみましたが、これが正しいかは正直わかりません。

ただし、このナツノビという単語が懐かしさを表現する形容詞であることは確信を持っています。

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そしてこれからジョージア語の語彙が増えていけば、懐かしさを表現する単語はどんどん出てくるのではないかと思います。

もしかしたら日本語よりも多彩な語彙となっているかもしれません。

いままで見ていても、ジョージア語にはそういった特性があると想像しています。

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※画像はトビリシのさまざまなスナップを使用しました。

見たことがない風景であっても、どこか「懐かしさ」を感じるのではないでしょうか。

【英語/カルトリ語表記と発音、その他】

・おなじみの(familiar/ნაცნობი/natsnobi)

・ニノ・カタマゼ & インサイト(Nino Katamadze & Insight/ნინო ქათამაძე და ინსაითი/nino katamadze da insaiti)

・ワンス・イン・ザ・ストリート(Once In The Street/ქუჩაში ერთხელ/kuchashi ertkhel)

・サウダージ/サウダーヂ(saudade)

筆者

ジョージア特派員

fujinee

ジョージアのトビリシに住んでいます。音楽や芸術が好きなので、そのような記事が多くなります。

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