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フランス/トゥルコアン特派員ブログ 冠ゆき

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2015年7月18日

No.202【コラム】フランス北部を形作るもの:世界遺産フランス北部とベルギーの鐘楼群


No.202【コラム】フランス北部を形作るもの:世界遺産フランス北部とベルギーの鐘楼群

 フランス語でPays-Bas(ペイ・バ)というと、今はオランダのことを指すが、意味はというと、「低地の国」。16世紀までは、今のフランス北部からベルギー、オランダをカバーする地域を指す名前であった。


 その名の通り、海抜の低い地域で、目立った山もなく、平らかな土地である。


 この平らかな土地を旅すると、いやでも目につくのが、それぞれの町にある高い塔、鐘楼である。

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平原に聳えるバイユルの鐘楼(左側)

 鐘楼はフランス語でbeffroi(ベフロワ)と言い、中世には、町の独立性を象徴するものであった。(No.106 参照)


 その昔、羊毛産業などで栄えたこの地方には、裕福な商人層が生まれ、ブルジョワと呼ばれる中産階級を形成するようになる。このブルジョワ層は、次第に、行政・法的・経済的自立を求めるようになる。


 鐘楼は、言ってみれば、封建制度の中で、君主のドンジョン(城の高い塔)に対抗して、ブルジョワたちが建てた建造物なのだ。

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リールの鐘楼


 実際、君主が市民に罰を与えるときは、その町の鐘楼の鐘を取り外したり、建築の装飾を壊したりするのが常であったという。


 では、象徴以外に、ベフロワにはどんな用途があったのだろうか。


 実は、その用途は、町の主要な機能にかかわるものであった。
具体的には、例えば、地下には牢獄。
一階には、町の警備が待機。
二階には、町議会の会議室があり、通常、重要な文書を収めたチェストはここに置かれていた。
それより上の階には、鐘があり、火事を知らせる時、人々に集合を呼びかける時、また危険を知らせるために鳴らされた。
忘れてはならないのが最上階。見張りの立つ場所が必ず設けられている。平らかな土地では、鐘楼に登れば、その見晴らしは、はるか遠くにおよび、敵を察知するには最適な場所であった。

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ベルグの鐘楼から見た地平線


 上述の「チェストに収められた町の重要な文書」には、その町の自由都市としての特権を記した「憲章」が含まれていた。


 この文書がいかに重要なものであったかは、13世紀のブリュージュの例を見ればわかるであろう。


 今のベルギー・ブリュージュに、当時建てられていた鐘楼は木造であった。1280年、この木造の鐘楼は、火災により、焼失。その際、保管されていた町の文書は、憲章も含め、すべて燃え尽きてしまったのだ。時の君主ギイ・ド・ダンピエール伯は、この憲章の再発行を拒否。そうして、それまで中産階級たちに与えていた特権を無視し、町を支配したのだった。

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現存するブリュージュの鐘楼は石造り


 これ以降、憲章を手に入れた町は、それをありとあらゆる手段で火の手、盗み、戦禍から守ることに腐心することとなる。


 すなわち、まず、鐘楼は、もっぱら石造となる。鐘を吊るす上階のみは、その響きによる振動を吸収するため、木造に。また、憲章は何重もの錠をかけられたチェストに保存されるようになった。


 現代においては、上述のような行政や法に関わる役割は果たさなくなったものの、鐘楼は今でも町の象徴である。


 鐘楼の上から毎日鳴り響くカリヨンや鐘は、住民にとって身近なものであるし、町によっては、祭りで鐘楼から何かを投げるという伝統を引き継ぐ場所も少なくない(No.150 参照)。

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ドゥエの鐘楼にあるカリヨン


 実はノール・パドカレー地方のロゴは、ハートに囲まれた鐘楼シルエットだ。モデルになったのはベチュヌ(Béthune)の鐘楼。地元の人の心の真ん中にしっかりと立つ鐘楼(ベフロワ)のロゴは、その位置・役割をそのまま表しているように思える。

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ノール・パドカレー地方のロゴ


 現在、ベルギーとフランス北部の鐘楼56がUNESCOの世界遺産に登録されている。

 そのうちフランス北部のものは23。No.201 に書いたように、ちょうど10年前、2005年7月15日の登録であった。

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フランス北部とベルギーの鐘楼群(拡大可)


 23の鐘楼のうち、ノール・パドカレー地方のものが17で、ピカルディ地方のものが6。


 それぞれに魅力あふれる建築物で、多くは、観光客に公開されている。


 その魅力は、稿を改めて紹介していきたい。

(冠ゆき)

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これまでのコラムは下からご覧いただけます。
No.6【コラム】1914-1944-2014:その壱
No.9【コラム】1914-1944-2014:その弐
No.13【コラム】或る一兵士の記録―100年目の命日に
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2015年7月18日
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  • 特派員プロフィール
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    トゥルコアン特派員
    冠ゆき
    山田流箏曲名取。1994年より渡仏。大学院での研究の傍ら、大学や専門学校で日本語日本文化講師を勤める。2000年より、ポーランド、イタリア、中国の生活を経た後、2013年フランスに戻る。旅好きでもあり、今までに訪れた国は約40ヵ国。6ヵ国語を解する能力と多様な文化に身をおいてきた経験を活かし、柔軟かつ相対的視点から、フランスと世界のあれこれを切り取り日本に紹介中。
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