62. タシケントで見るソビエト共産遺産。タイル・モザイク画、像、レリーフ、etc.

公開日 : 2022年08月07日
最終更新 :

サローム(こんにちは)!

偉大なシルクロードの国というイメージが強いウズベキスタンですが、100年以上ロシアの支配下にあり、うち約70年はソビエト連邦に属していたという歴史も忘れてはなりません。特に首都タシケントは独立以後の発展でソビエト色が消えつつあるとはいえ、町歩きの際目を凝らしてみれば「ソビエト共産遺産」ともいうべきソ連の名残が見つかるはずです。

無機質で画一的という印象のソ連時代の建築物ですが、それがかえってかっこいい!と旅行者に人気になりつつあります。私も最初にこの国に来た12年前は気にも留めなかったこれらの建築物ですが、無骨ななかにも華やかで繊細なデザインが多く、その虜になりつつあります。その最たるものは、何と言ってもタシケント地下鉄の個性豊かな駅たちでしょう。以前の記事では、その一見の価値があるおすすめの駅について紹介しました(19. 地下に広がる美の空間!タシケントのおすすめ地下鉄駅ベスト5)。
けれどまだまだタシケントには見ていただきたいソビエト建築があるのです。

まずはタシケントの住居の多くを占める、ロシア式集合住宅(ロシア語でквартира クバルチーラ)に注目。一見ただの真四角なマンションに見えますが、よくよく見ると建物の形が凸凹していたり、窓枠の形や色が特徴的だったり。

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地下鉄コスモナウトラル駅近くにある、「真珠」という形も名前もエキセントリックな建物
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階段のところだけぽっかり円状に空いた、レトロかつ斬新なアパート
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外装が格子状に飾られた建物もよく見かける

そしてその壁面には、見事な装飾画が描かれていることも。これこそがタシケントに来る旅行者を魅了するクバルチーラ壁画です。これこそ、といっても私が勝手に命名した名前ですが......。

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民族楽器ドゥタールとドイラを演奏するウズベク人を描いた躍動感あふれる装飾画
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ここに描かれているのは何と航空機!?

この壁画は旧ソ連圏のいたるところで見ることができますが、ウズベキスタンのものはひと目でウズベクのものとわかる伝統的な絵柄や模様、そしてこの国お得意の装飾技法であるタイル・モザイク画であることが特徴。まさにソビエト・ロシアの共産主義的文化とウズベク伝統文化の華麗なる融合といえましょう。壁いっぱいに巨大なタイル画が描かれたものもあり、思わずカメラを向けてしまいます。

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これらの装飾は描かれたのはおもに1970年代以後。1966年にタシケントは市内の建物がほぼ倒壊したといわれたほどの大地震に見舞われましたが、それ以後一気に増殖した集合住宅に描かれたのです。この技法を考案したのが、フランス生まれのロシア系デザイナーであるニコライ、ピピョートル、アレクサンドルのジャルスキー3兄弟。当時彼らほどの技量を持ったアーティストはここにいなかったと言われており、今でも彼らが描いたタイル・モザイク画はタシケントで輝いています。

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また市内南西部のチランザール地区には、この震災の復興のためにソ連各地から動員された労働者が建設した住宅がたくさん残っています。その中には、労働者の故郷の地名や紋章、そして彼らからタシケント市民へのメッセージが書かれたものもあります。現在のロシアやウクライナ、バルト三国など、あらゆる地域の労働者がこの町の再建に携わった証が残っているのです。

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「タシケントの人々に幸運を。ベラルーシ人民より」。ソ連のスローガンであった民族友好を思わせるメッセージ

私もこれら集合住宅に描かれた壁画や模様などを見つけるたびに写真に収めており、帰国後本気でクバルチーラ壁画図鑑を作成しようと考えているところです。もし出版したら皆さん買ってくださいね(笑)

ソビエトらしい遺産といえば、像もそのひとつ。タシケントにはとにかくあらゆる人物の像があります。タシケントの心臓ティムール広場に勇ましく建っているティムール像はその代表ですが、かの有名なロシアの詩人プーシキン像や、宇宙飛行士ガガーリン像も。

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ガガーリン像は地下鉄ノヴザ駅とミルゾ・ウルグベク駅の間、その名もガガーリン通りの突き当たりにある

中でも私のお気に入りは、地下鉄ムスタキリク・マイドニ駅から北へ徒歩15分ほどのところにある「勇気の像」。Googleマップでは"Monument of Courage"の名称で載っています。

名前だけ見ても何の像なのかよくわからず、実際見てみても男性と子供をおぶった女性をかたどった像が力強く地面を踏みしめているだけ。何も知識がないと何だこの像?という感想で終わってしまいますが、実は先述の大震災を記念した像なのです。

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像の手前にある立方体は時計を表しており、地震が発生した5時23分を指しています。隣の面には発生日の1966年4月26日という記載もあります。

像の後方のパネルにはタシケントの復興のためソ連中から集まった労働者の姿、そして無事復興を果たし人々が歓喜のあまり踊っている姿がいきいきと描かれています。50年以上も前のことなのに、このパネルを見ていると今でもその様子が目に浮かんでくるようです。

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最後に紹介するのがGoogleマップでMemorial "Bratskiye Mogily"、「兄弟の墓モニュメント」の名称で乗っている箇所。ここは第二次世界大戦、ソ連やロシアの名称では大祖国戦争の犠牲になった戦没者墓地なのですが、ここに併設されているのがやはり旧ソ連圏でよくある、この戦争にまつわるプレート。今にも飛び出てきそうな勇ましい兵士たちとロシア語・ウズベク語併記のスローガン、そして1941-1945の文字がレリーフになっています。

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サンクトペテルブルクやボルゴグラードなど、この戦争の際ドイツなどの枢軸軍などに激しく抵抗して政府から称号を与えられた英雄都市の名が書かれた階段を上ると、そこにあるのが永遠の炎と嘆きの母の像。町全体再開発が進んでいるタシケントの中で時代に取り残されたようなこの一画は、戦争の記憶を現代に伝えるための重要なスポットになっているのです。ソ連の戦勝記念日で、ウズベキスタンでは追憶の日という祝日となっている5月9日は、戦死者を悼むため多くの人々が集まるそうです。

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ソビエトや東側諸国らしい風景を求めにウズベキスタンへいらっしゃる方、いわゆる共産趣味の方々はなかなか珍しいかもしれませんが(もしいらっしゃればぜひともお会いしたいものです......!)、共産遺産とは何ぞや?とお思いの方もタシケントで時間があるならぜひとも見ていただきたいこれらのスポット。あらゆる時代のすばらしい遺産が楽しめるのも、さまざまな文化が積み重なった国である文明の十字路ウズベキスタン、そしてその首都タシケントの魅力なのです。

それではコルシュグンチャ・ハイル(また会う日まで)!


参考ウェブサイト・論文:
https://uzbloknot.com/2022/03/30/unique-decoration-of-tashkent/
鳳 英里子『壁面を彩る : タシケントのパネル式多層階集合住宅の装飾事例』
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/47676/1/SEP1_009.pdf

筆者

ウズベキスタン特派員

伊藤 卓巳

根っからのスタン系大好き人間です。まだまだ知られていないウズベキスタンの魅力や情報を、サマルカンドより愛をこめてお伝えします!

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